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MitoNEETによる脂肪細胞ミトコンドリア機能の調節は、肥満におけるインスリン感受性維持に重要

MitoNEET-driven alterations in adipocyte mitochondrial activity reveal a crucial adaptive process that preserves insulin sensitivity in obesity.

Kusminski CM, Holland WL, Sun K, Park J, Spurgin SB, Lin Y, Askew GR, Simcox JA, McClain DA, Li C, Scherer PE.

Nat Med. 2012 Sep 9;18(10):1539-49.

【まとめ】
ミトコンドリア外膜に存在する蛋白であるmitoNEETの脂肪細胞における発現を変化させたモデルマウスを用いて、ミトコンドリア機能と代謝への影響を検討した。脂肪細胞特異的にmitoNEETを過剰発現させたところ、脂質の取り込みと貯蔵が促進され、脂肪組織量が増加した。そのマウスは結果的に肥満にはなるが、インスリン感受性は保たれた。鉄はミトコンドリア電子伝達系の律速因子であるが、mitoNEETはミトコンドリアのマトリックスへの鉄輸送を阻害すること、β酸化率を低下させることを明らかにした。これによりミトコンドリア膜電位が低下、活性酸素種による障害が減少し、これに伴ってadiponectin産生が増加した。逆に、mitoNEET発現を減少させたマウスでは、ミトコンドリアマトリックス内の鉄の量が増加してミトコンドリア呼吸能が促進され、高脂肪食負荷しても体重減少が少なかった。しかし、このmitoNEET発現の減少は酸化ストレスの亢進と耐糖能障害をもたらした。以上の結果より、mitoNEETの発現を変えることによってミトコンドリア機能を変化させると、細胞および全身の脂質恒常性が大きく影響されることが明らかになった。

【論文内容】
正常な脂肪組織は、他の組織では毒性をもつ遊離脂肪酸(FFAs)を貯蔵しておく「safe haven(安全な避難先)」として、糖尿病を防ぐ役割を担っている。脂肪細胞から分泌されるadiponectinは(インスリン抵抗性改善作用のほかに)、トリグリセリドを脂肪組織に貯蔵する働きがあり、それにより代謝を改善させる。脂肪組織ではミトコンドリアでのβ酸化によって脂質の酸化が起きているため、ミトコンドリア機能(β酸化率、酸化酵素活性、電子伝達系(ETC))の低下は2型糖尿病につながりうる。この研究では、ミトコンドリア膜蛋白であるmitoNEETのgain-of-functionおよびloss-of-functionモデルを用いて、ミトコンドリア機能と全身の代謝の関連について検討した。MitoNEETはpioglitazioneとクロスリンクして安定化するミトコンドリア膜の蛋白として同定された。ミトコンドリア外膜に存在し、C末端配列がAsnGluGluThr(NEET)であるため、この名称がある。また、2つの鉄イオンと硫黄イオンを含むクラスター(2Fe-2S cluster)を持ち、pioglitazoneはこれらの放出に対して蛋白を安定化する作用がある。MitoNEETはミトコンドリアの鉄の含量の強力な調節因子であり、ミトコンドリア鉄含量は細胞および全身の代謝に影響することが知られている。

MitoNEETは脂肪組織の増大を促進する
MitoNEETによる脂肪細胞ミトコンドリア機能の調節は、肥満におけるインスリン感受性維持に重要_d0194774_12125815.pngマウスに高脂肪食負荷すると、脂肪組織と肝臓におけるmitoNEETの発現は低下した。そこで、脂肪組織におけるmitoNEET活性を増加させるため、aP2 promotorを用いて、脂肪細胞特異的mitoNEET過剰発現トランスジェニックマウス(MitoN-Tgマウス)を作製した。これをob/obマウスと交配したMitoN-Tg ob/obマウスは、体重が非常に増加した(最大で129.5g)。しかし、通常のob/obマウスが高血糖(474±26 mg/dl)なのに対し、Mito-N ob/obマウスは正常血糖(111±14 mg/dl)であった。MitoN-Tg ob/obマウスは、OGTTで正常耐糖能、高インスリン正常血糖クランプで全身および肝のインスリン感受性亢進を示した。MitoN-Tg ob/obマウスは肝・脂肪組織・膵への脂肪蓄積が少なく、膵島の数や形態も野生型(WT)マウスと同様であった。インスリン抵抗性に関与しているとされるceramideの肝における濃度は、MitoN-Tg ob/obマウスは通常のob/obマウスより低く、20%intralipid経口投与後の脂肪組織中の過酸化脂質(F2-isoprostane)濃度も低かった。

MitoNEETは脂質の取り込みとadiponectin産生を促進する
MitoNEET過剰発現により、脂肪分化・トリグリセリド合成・脂肪滴関連蛋白合成・脂肪酸取り込みと輸送・グルコース取り込みの経路で遺伝子発現の変化が認められた。特に、WTの皮下白色脂肪組織(sWAT)に比べると、MitoN-TgのsWATでは、 adiponectinおよびPpargc1a(PGC1)αの発現が増加していた。また、脂肪酸トランスポーターCd36の発現も亢進しており、経口脂質負荷後のトリグリセリドのクリアランスが有意に増加していた。MitoN-TgマウスはWTマウスに比べて血中adiponectinが高値であり、mitoNEETがadiponectin産生と放出に関連していること分かった。MitoN-Tg Adiponectin欠損マウスではトリグリセリドのクリアランスが増加しなかったため、mitoNEETによるトリグリセリドのクリアランス増加の一部は、adiponectinの増加によるものと考えられた。通常、トリグリセリドは、カテコラミン刺激によりFFAとグリセロールに分解される。β3-adrenergic agonist(CL316,243)を投与すると、MitoN-TgマウスはWTに比べ多くのグリセロールを放出した。また、MitoN-TgのsWATではPepck発現が著明に亢進しており、グリセロール合成が促進されていた。LPL(lipoprotein lipase)は、トリグリセリドのクリアランスを調節する重要な作用があるが、MitoN-TgのsWATは、WTに比べてLPL活性が亢進していた。

MitoNEETを介する脂肪酸代謝の調節
さらに脂肪酸代謝について検討するため、MitoN-TgマウスとWTマウスに3H-trioleinトレーサーを投与して、脂質蓄積とβ酸化率を定量する実験を行った。MitoN-TgマウスはWTマウスに比べ、全身の3H-trioleinクリアランスが亢進していた。MitoNEETの主要な発現部位であるsWATおよび、その他の発現部位であるBATにおいて、MitoN-Tgマウスのβ酸化率は亢進していた。また、MitoN-TgのsWATではWTのsWATに比べて、脂肪細胞が小さく、インスリン抵抗性につながる肥大した脂肪細胞は少ないことが分かった。

MitoNEETはミトコンドリア機能と鉄量を調節する
MitoNEETは鉄・硫黄クラスター輸送蛋白であり、ミトコンドリアの鉄代謝に関わっている。実際に、mitoNEET過剰発現によって、sWATのミトコンドリアの鉄(電子伝達系の律速因子)の量は50%程度にまで減少してしまう。mitoNEETがどのようにβ酸化を低下させ、脂質蓄積を促進するかを検討するため、3T3-L1脂肪前駆細胞にmitoNEETを過剰発現したところミトコンドリアの膜電位(ΔΨm)は低下した。同様のΔΨmの低下はTZDの投与でも起こった。このmitoNEETによるΔΨmの低下は、mitoNEET 発現増加による電子伝達系活性の低下・ミトコンドリアへの不十分な基質供給・ミトコンドリアマトリックスへの電子流入の増加によると考えられた。さらに、ミトコンドリア機能の評価として以前報告した電子流入解析と酸素消費率(OCRs)を測定したところ、MitoN-TgマウスのsWATは基質に反応したOCRsが著明に低下していたが、rotenone(complex I阻害剤、ROSによる酸化ストレスを亢進させる)に反応するOCRsは増加していた。さらに、MitoN-TgのsWATはNAD+:NADH比が低下しており、NADHのETCによる再酸化が不十分、またはmitoNEETはβ酸化の低下を代償するため解糖率(NADH産生過程)が亢進させていると考えられた。

MitoN-TgとWTマウスに20%intralipidを経口投与し、脂質によるROS産生が亢進している状態にしても、MitoN-TgのsWATではROSによる過酸化脂質(F2-isoprostane)産生が少なかった。電顕でミトコンドリア像を比較すると、MitoN-TgのsWATのミトコンドリアは伸長され、長いフィラメント構造を呈し、脂肪滴様構造が隣接していた(運動した骨格筋でみられるような現象である)。また、脂肪組織中のミトコンドリアの量も多く、ミトコンドリア生合成が増加していると考えられ、これはMitoN-TgのsWATでPgc1-αのmRNAが増加していることと一致していた。

MitoNEET発現低下は正反対の効果をもたらす

次に、doxycycline(Dox)誘導性にmitoNEET発現をshRNAノックダウンするマウス(shRNA-mitoNマウス)を作製し、全身でmitoNEETの発現を低下させるモデルを作製した。このマウスにDoxを含む高脂肪食(Dox-HFD)を負荷したところ、WTマウスに比べ体重増加が少ないものの、耐糖能は悪化していた。shRNA-mitoNマウスは、肝におけるROS誘導性の蛋白傷害(カルボニル化)が増加していた。Dox-HFD負荷shRNA-mitoNマウスは、肝への脂肪蓄積が少なかった(局所でのβ酸化の増加による)。また、Doxを添加したshRNA-mitoNマウスのMEFs1は、ΔΨmが増加(TMRM染色が増加)し、パルミチン酸に反応したOCRsが増加(β酸化が亢進)していた。さらに、shRNA-mitoNマウスの肝のミトコンドリアは基質に対するOCRsが増加していた。以上のloss-of-functionマウスの特徴はgain-of-functionマウスの形質と正反対であったため、mitoNEET発現量によりミトコンドリア活性が調節されていることが示された。なお、shRNA-mitoNマウスはWTマウスに比べてミトコンドリア鉄の濃度が高く、このこともmitoNEETがミトコンドリア鉄含量の重要な調節因子であることを示している。

MitoNEETによる脂肪細胞ミトコンドリア機能の調節は、肥満におけるインスリン感受性維持に重要_d0194774_1261086.jpg


【結論】
MitoNEETの発現量を変更することにより、ミトコンドリア機能と脂質恒常性を変化させ、全身のインスリン感受性を調節することができた。脂肪細胞特異的mitoNEET過剰発現では、β酸化の低下により著明な肥満マウス(mitoN-Tg ob/obマウス:報告されているマウスモデルのうち最大かそれ以上の重量を示した)となったが、それにもかかわらず全身のインスリン感受性は亢進している、いわゆる「metabolically healthy but obese」の状態を示した。これは、MitoN-Tgでは脂肪細胞のミトコンドリアにおけるβ酸化の低下により、sWATへの脂肪取り込みと蓄積が亢進して異所性脂肪が減少したためと考えられる。また、脂肪細胞のミトコンドリア機能はadiponectin産生に重要なので、このマウスではadiponectin分泌により、トリグリセリドクリアランスとインスリン感受性の亢進をもたらしたと考えられる。
by md345797 | 2012-11-01 02:40 | エネルギー代謝