人気ブログランキング | 話題のタグを見る

一人抄読会

syodokukai.exblog.jp
ブログトップ

肥満によるmiR-802過剰発現は、ヒトMODY5の原因遺伝子Hnf1b発現抑制を介して糖代謝を阻害する

Obesity-induced overexpression of miR-802 impairs glucose metabolism through silencing of Hnf1b.

Kornfeld JW, Baitzel C, A. Könner AC, Nicholls HT, Vogt MC,Herrmanns K, Scheja L, Haumaitre C, Wolf AM, Knippschild U, Seibler J, Cereghini S, Heeren J, Stoffel M, Brüning JC.

Nature 494,111–115, 07 Feb 2013.

【まとめ】
いくつかのmiRNA(miR-143miR-181miR-103 とmiR-107)には、肝のインスリン抵抗性を変化させる働きがあることが知られている。この研究では、肥満マウスモデルおよび肥満のヒトの肝でmiR-802の発現が増加していることを明らかにした。誘導性のmiR-802過剰発現トランスジェニックマウスは耐糖能異常とインスリン抵抗性を示し、miR-802をターゲットにしたlocked nucleic acids (LNA)を用いてmiR-802発現を減少させるとインスリン抵抗性は改善した。さらに、miR-802によるsilencingのターゲットは Hnf1b (別名Tcf2)であり、shRNAにより肝のHnf1bをノックダウンすると耐糖能異常とインスリン抵抗性、肝糖産生増加が起こった。逆に、db/dbマウスの肝にHnf1bを過剰発現させるとインスリン抵抗性が改善した。以上より、肝のmiR-802の発現増加は「肥満に伴うインスリン抵抗性」の一因であり、そのメカニズムはmiR-802によるHnf1bの減少を介することが示された。


【論文内容】
肥満にはインスリン抵抗性や2型糖尿病が伴うが、その際に変動するmiRNAを同定するため、肥満のモデルマウス(高脂肪食負荷、およびLepr db/dbマウス)とそれぞれのコントロールから採取した肝のRNAで、miRNA マイクロアレイを用いて「miRNome」発現プロファイルの検討を行った。肥満で増加するmiRNAの中には、既知のmiR-103/miR-107, miR-143, miR-335が含まれたが、さらに新しいものとしてmiR-802の増加を同定した(高脂肪食で5.5倍、db/dbで30倍に増加)。このmiR-802は正常ヒト肝に比べ、過体重(BMIが25を超える)ヒトの肝でも発現が有意に増加していた。

まず、miR-802をhepatome細胞株であるHep1-6細胞に過剰発現させたところ、インスリンによるAktリン酸化が低下、インスリンシグナル伝達抑制に働くSocos1とSocs3の発現が増加した。さらに、G6pcの発現も増加しており(肝の糖産生亢進に向かうため)、インスリン抵抗性亢進に働くことが分かった。次に、in vivoでのmiR-802過剰発現の効果を調べるため、Dox誘導性のmiR-802過剰発現トランスジェニックマウス(miR-802マウス)を作製した。このマウスは、Doxの誘導により全身でmiR-802の発現が増加する。このマウスはmiR-802過剰発現により、耐糖能とインスリン抵抗性が悪化し、HOMA-IRが増加した。

また、肥満マウスでmiR-802発現を減少させるため、miR-802をターゲットにしたlocked nucleic acids (LNA)を作製して、高脂肪食負荷マウスに注入した。その結果は高脂肪食マウス肝のmiR-802発現は80%減少した(なお、他の臓器、骨格筋、膵、白色脂肪組織、視床下部などのmiR-802発現の減少はわずかだった)。この高脂肪食負荷miR-802発現抑制マウスの耐糖能障害、インスリン抵抗性は改善しており、正常血糖高インスリンクランプによって、インスリンによる骨格筋・WATの糖取り込みは変化しなかったが、肝糖産生抑制は改善(p=0.065)、G6pc発現は低下、Aktリン酸化は亢進した。以上より、miR-802の発現抑制は、主に肝のインスリン作用改善を介して全身のインスリン抵抗性改善をもたらすことが示された。

次に、バイオインフォマィテックスの手法を用いて、miR-802のターゲットとなるmRNAを同定したところ26のターゲット遺伝子が得られ、その中にhepatocyte nuclear factor 1 beta (Hnf1b; 別名transcription factor 2, Tcf2。ヒトのHNF1B遺伝子に相当)が含まれていた。ヒトのHNF1BはMODY type5の原因遺伝子であり、GWASでもHNF1Bのvariantは2型糖尿病発症に関連していることが知られている。miR-802の過剰発現でHepa1-6細胞にtransfectしたHnf1b 3’ UTRのluciferase活性が低下し、miR-802結合部位の変異によりその低下は回復した。 Hepa1-6細胞でのmiR-802過剰発現によりHnf1b蛋白発現も増加した。miR-802発現が増加しているdb/dbマウスでは、肝のHnf1b蛋白発現は50%低下しており、anti-miR-802 LNAによってこれは回復した。Hepa1-6細胞でshRNAを用いてHnf1bをsilencingするとG6pcとPck1の発現はぞうか、およびSocs1とSocs3発現が増加した。肝細胞(in virtoとin vivo)において、Hnf1bはmiR-802の転写後silencingターゲットであることが示された。

なお、Hnf1bのヘテロ欠損マウス(Hnf1b+/−)ではHnf1b mRNAの低下はほとんどなく、蛋白発現量はコントロールと同じであった。このマウスでは肝のmiR-802発現は低下しており、そのためにHnf1b蛋白量の低下が見られなかったのかもしれない。そこで、急性にHnf1b蛋白を減少させるため、Hnf1bをターゲットとしたshRNAを含むアデノウイルス(Ad-shHnf1b)をマウスに静注し、肝のHnf1b mRNAを40%減少させた。このマウスでは耐糖能、インスリン抵抗性は大きく悪化していおり、インスリンによるAktリン酸化も障害されていた。このマウスの肝から単離したmRNAのマイクロアレイ解析によると、Hnf1bの発現低下に伴って糖新生、脂肪酸のβ酸化、酸化的リン酸化、TCA回路の遺伝子発現増加が認められた。qRT–PCR解析では、Pgc1a発現誘導により、糖新生遺伝子であるPck1とG6pc発現が増加していた。逆にanti-miR-802 LNAを投与した高脂肪食負荷マウスではPck1とG6pcのmRNA発現は減少した。

さらに、Hepa1-6細胞にmiR-802を過剰発現させたところに、アデノウイルスでHnf1bを過剰発現させると、G6pc発現増加は低下(回復)した。同様にdb/dbマウス肝にアデノウイルスでHnf1bを発現させると、インスリン抵抗性が改善した。すなわち、miR-802によって肝のHnf1b発現が低下していたことが、肥満マウスにおける代謝障害の一因になっていたことが分かる。

【結論】
肥満の状態においては、肝でmiR-802が発現し、そのターゲットである肝の転写因子Hnf1b発現が抑制されることにより耐糖能障害・インスリン抵抗性が惹起される。ヒトにおいてはHNF1Bの欠失またはloss-of-functionアリルはMODY type5の原因であり、膵β細胞だけでなくインスリン抵抗性にも関連する。インスリン抵抗性亢進に至る経路は、miR-802発現増加→Hnf1b発現抑制→これによるSocs1、Socs3の転写の増加(de-repression)、によるのかもしれない。いずれにしろ、in vivoにおいて、miR-802とHbf1bを介する糖代謝・インスリン抵抗性の調節経路が明らかになったことは意義深い。さらに、miR-802は、一般的な肥満に伴うインスリン抵抗性と、まれな遺伝病であるMODY5をつなぐ新しいmiRNAとしても注目される。

◇なお、本論文のmiR-802および既報のmiR-143に関しては、Keysotone Symposia (2013. Jan, keystone, CO)にてJens C.Brüningによって発表された。
by md345797 | 2013-02-07 17:20 | シグナル伝達機構