Autophagy in Human Health and Disease.
Choi AMK, Ryter SW, Levine B.
N Engl J Med. 368:651-662 February 14, 2013.
【総説内容】
ヒトにおいて、オートファジー(Autophagy:
self-eatingの意味をもつ)が果たす生理学的役割および疾患における役割が明らかになりつつある。一般に「オートファジー」と呼ばれるmacroautophagyは、細胞質内の不要物に対してオートファゴソームが形成され、それがリソソームと融合し、分解・リサイクルを行う過程である(
図1)。
(図1)オートファジー経路の段階
左から、オートファジーの開始(initiation)→小胞(vesicle)の延長→成熟したオートファゴソームの形成→オートファゴソームのリソソームとの融合(fusion)→リソソームの酸性加水分解酵素(acid hydrolases)によるオートファゴソーム内容物の分解と、代謝へのリサイクルという過程がある。
オートファジー調節の分子機構
オートファジーの調節機構は、
図2のようなものである。
①環境からの刺激(cues)は細胞内シグナル伝達を活性化して、オートファジーの調節分子(当初酵母で同定されたautophagy-related genes (Atg) 産物のホモログ)に伝達される。
飢餓状態(starvation)はmTOR活性の抑制によりオートファジーを活性化する。栄養素の欠乏およびエネルギー喪失によりmTORC1(mTOR-Raptor-PRAS40-GβL)は阻害されるが、それにより
ULK1が活性化される。これがオートファジー開始の重要な段階である。逆に、インスリンや成長因子刺激(class I PI3-kinase-AKTの活性化を介する)および栄養素(leucineなど)は、mTORC1を活性化して、ULK1、ATG13、ATG101、FIP200からなるmTOR基質複合体を阻害する。これによりオートファゴソーム形成は阻害される。
②一方、Beclin-1-interacting complex は、Beclin1、BCL-2 family蛋白(オートファジーを抑制)、class III PI 3-kinase (VPS34)、ATG14L(オートファジーに必要)からなるオートファジーの調節プラットフォームである。この複合体が刺激されると、phosphatidylinositol-3-phosphate(PI3P)が生成され、オートファゴソーム形成(膜の核生成:nucleation)が促進される。
③オートファーゴソームの延長には2つのユビキチン様結合システム、すなわち「ATG5-ATG12結合システム」と「LC3-ATG8結合システム」が必要である。
④後者のシステムにおいて、細胞質欠失型LC3 (LC3-I)がオートファゴソーム膜結合型LC3(phosphatidylethanolamine結合型(PE-conjugated form):LC3-II)へと変換されことはオートファーゴソームの形成を示唆し、免疫蛍光染色上の斑点(LC3 puncta)として可視化できる。
⑤その後、オートファゴソームとリソソームの融合が起きるが、この過程の障害は、オートファーゴソーム数の増加をもたらし、さまざまな疾患につながりうる。
(図2) オートファジー経路の分子調節機構。上のオートファゴソーム形成の調節と下のオートファゴソーム延長と成熟の調節に分けられる。
オートファジーの機能
オートファジーは、代謝前駆物質の再生と細胞内不要物の消去を行うことにより細胞機能を維持するという、ストレス下の生存メカニズムとして機能している。最近、オートファジーを受ける基質の選択性が同定され、これらは細胞内輸送機関(cargo)に特異的な因子によって調節されていることが明らかになってきた。オートファジーは、ミトコンドリアや他の細胞内小器官(endoplasmic reticulum やperoxisomes)のターンオーバーに関わっている(ミトコンドリアターンオーバーに関するものはmitophagy)。さらにストレスや加齢、蛋白構造の異常などで蓄積するポリユビキチン化された凝集体蛋白(protein aggregate)の消失(aggrephagy)や、
脂質代謝(lipophagy)にも関わっている。
オートファジーは主に、細胞死を予防する保護的メカニズムとして作用している。そのため、オートファジー調節因子とアポトーシス調節因子の相互作用が認められている(BCL-2とBeclin 1、KC3BとFasの相互作用など)。オートファジーが過剰であっても、逆に障害されていてもそれだけでは直接細胞死を起こすわけではないが、両者はアポトーシスを介する細胞死に関連があると考えられている。
感染下では、オートファジーは細胞内細菌やウイルスの分解により(xenophagy)、免疫反応を助ける作用がある。オートファジーは、ウイルス感染に対するインターフェロン反応や病原体に対する炎症性サイトカイン反応といった炎症反応を低下させ、インフフラマソーム依存性の炎症性サイトカイン(IL-1βやIL-18)の産生を抑制する。オートファジーは、抗原提示やリンパ球発生といった獲得免疫反応においても重要な役割を果たしている。また、オートファジーは自己寛容T細胞レパトアの生成も促進し、炎症および免疫機能全体の調節に関わっている。
疾患におけるオートファジー
(1) 癌
オートファジーは癌の発生と進展にさまざまな影響を及ぼし、その化学療法に対する治療効率にも関係している。ヒト乳癌、子宮癌、前立腺癌の40-75%で、Beclin 1遺伝子(
BECN1)の単一対立遺伝子性(monoallelic)の異常が起きている。腫瘍組織でBeclin 1の発現異常は、癌の予後不良と関連がある。マウスでは
Becn1のmonoallelicな欠失(
Becn1+/-)は発癌につながるため、Beclin 1は腫瘍抑制蛋白と考えられている。その他のオートファジー関連蛋白(Uvrag、Bif1)やオートファジー蛋白(Atg4C、Atg5、Atg7)は腫瘍抑制機能をもつ。また、既知の腫瘍抑制蛋白(PTEN、TSC1/2、LKB1、p53)はオートファジーを刺激する。Beclin 1-依存性オートファジー機能は、AKT活性化を通じてヒトの癌を抑制すると考えられている。前立腺癌におけるATG5の発現増加のように、他のオートファジー蛋白の発現の変化もヒト癌で認められる。
オートファジーは、代謝ストレスに対してミトコンドリアターンオーバーを増加させ、蛋白凝集体消失を促進することにより、発癌抑制機能を持つと考えられている。オートファジー蛋白を遺伝的に欠損させると、ミトコンドリア機能異常および酸化ストレス増加が起こり、炎症性刺激に対する感受性が増加し、DNA傷害と遺伝的不安定性をもたらされる。
その一方で、腫瘍組織では、オートファジーが腫瘍の生存に有利に働くことも知られている。高い増殖能と血行不良によって低酸素状態にさらされている腫瘍組織は代謝ストレス下にあり、化学療法はこれを利用して腫瘍細胞を攻撃する。ここでオートファジーを阻害すると(ATG5、ATG7の欠損など)、化学療法の効率が上昇する。すなわち、逆に考えれば
オートファジーは腫瘍細胞の化学療法に対する抵抗性を増加させていることが分かる。このように腫瘍細胞においてオートファジーは化学療法に対抗すると同時に、それとは逆にオートファジー関連細胞死経路によって化学療法の細胞毒性を増強することも一方では知られている。このオートファジー蛋白と腫瘍の化学療法抵抗性の間の複雑な関係については、さらなる検討が必要であろう。
(2) 神経変性疾患
神経変性疾患は、蛋白の遺伝子変異や異常蛋白の消失メカニズムの障害によって、ミトコンドリア機能異常と蛋白凝集体の蓄積が起こることが原因である。すなわち、神経変性疾患ではオートファジーの障害が起きていると考えられる。例えば、アルツハイマー病の脳にはオートファーゴソームの蓄積が増加している。また、マウスのオートファジー蛋白の欠損モデルでは、神経変性疾患の発症は蛋白凝集体の蓄積に関連がある。薬物でオートファジーを刺激すると、これらのモデルの神経変性に伴う症状が緩和される。ハンチントン病と関連するポリグルタミン疾患では、変異した(mutated) huntingtin(mhtt)がニューロンの核周囲の細胞質に凝集して核内封入体を形成しているが、この過程でオートファジー経路の障害が見られる。最近、mhttがオートファーゴソームの細胞内輸送体の認識を直接障害し、オートファジー経路の障害を起こすことが報告された。アルツハイマー病では、過剰にリン酸化したtau蛋白の蓄積が見られ、これが神経原線維濃縮体の形成と神経斑におけるβ amyloid peptide (Aβ)の蓄積をもたらしている。Aβはリソソーム機能を障害し、オートファジーによるAβの消失は抑制されている。さらにγ-secretaseとその関連酵素を含むオートファーゴソームは、前駆体からのAβ産生に関与しており、オートファーゴソーム-リソソーム融合の障害の条件下でのAβ源となっている。パーキンソン病では、ミトコンドリア機能異常と神経変性と関連が示されている。機能異常をきたしたミトコンドリアはターンオーバーのためにオートファーゴソームに輸送されるが(mitophagy)、この過程はPINK1およびParkinにより調節されている。これらの蛋白の遺伝子変異は、劣性家族性パーキンソン病の原因となる。散発性パーキンソン病はα-synuclein凝集体(Lewy小体)が蓄積し、これがミトコンドリア機能異常を起こす。α-synucleinはオートファジーを受ける基質であるが、この蛋白の蓄積自体がオートファジーを障害し、自身の消失を阻害していることが分かっている。
(3) 感染性疾患
細菌(A群Streptococcus、
Mycobacterium tuberculosis、
Shigella flexneri、
Salmonella enterica、
Listeria monocytogenes,、
Francisella tularensis)、ウイルス(HSV-1、chikungunya virus)、寄生虫(
Tocoplasma gondii)は、in vitroにおいてxenophagyによって分解される。マクロファージ特異的にAtg5を欠損させたマウスは、M. tuberculosis感染を受けやすい。薬剤によりオートファジーを亢進させると、細胞内の病原体がオートファーゴソームに輸送される。
細菌の毒性因子は宿主のオートファジーを抑制するが、この毒性因子を阻害することは新たな感染性疾患の治療戦略となりつつある。Sirolimus (従来名はrapamycin)はmTOR抑制により、オートファジーを亢進させ、ヒト免疫不全ウイルスやM. tuberculosisの複製を阻害する。また、前述のようにオートファジーは獲得性免疫の調節にも重要であり、オートファジーを亢進させる治療はワクチン開発にも有用である。オートファジー遺伝子は、感染性・炎症性疾患への感受性に関連しているということがわかってきた。ヒトのGWASによってオートファジー調節遺伝子(ATG16L2、NOD2、IRGM)のSNPsとCrohn病のリスク増加が関連していることが示されている。IRGMのSNPsはヒトにおいてM. tuberculosis感染と関連がある。このように、オートファジーの異常と炎症性・感染性疾患の関連が指摘されている。
(4) 心血管疾患
LAMP2(オートファーゴソームとリソソームの融合を促進する蛋白)の遺伝性X染色体連鎖欠損は、Danon病として知られる心筋症を引き起こす。この患者の心筋細胞の異常はミトコンドリア機能異常とオートファーゴソーム数の増加である。実験的な、虚血再灌流傷害はオートファジーの異常を起こし、ATP欠乏、低酸素、Ca2+バランスの変化などをもたらす。動脈硬化性プラークのマクロファージでは、オートファーゴソームの数が増加している。オートファジーは、動脈硬化プラークをマクロファージのアポトーシスを予防することで安定化させる。
(5) 代謝疾患
オートファジーはさまざまな代謝前駆物質を再生し放出するので、組織の代謝には大きな影響を与える。例えば、オートファジー蛋白の遺伝的欠損では肝の脂肪滴のトリグリセリド蓄積が促進され、p62/SQSTM1の変異は骨代謝異常のPaget病と関連している。運動により筋・脂肪組織・膵β細胞でのオートファジーは亢進し、運動によるオートファジー亢進は高脂肪食による耐糖能異常を改善する。
脂肪細胞特異的なオートファジー蛋白(Atg7)欠損では、脂肪分化が変化し(褐色脂肪組織増加につながり)インスリン感受性が亢進する。
脳のAgRPニューロンでのオートファジー欠損では、摂食調節異常が起きる。
(6) 肺疾患
COPD患者の肺では、LC3B-II発現とオートファーゴソーム形成が増加している。また、LC3Bを欠損させたマウスにタバコの煙を長期に吸入させても、肺気腫は起こりにくい。嚢胞性線維症(cystic fibrosis, CFTR変異)の発症機構に、凝集蛋白の消失(aggrephagy)の障害が関与している。喘息の発症とオートファジーについてはよく分かっておらず、オートファーゴソーム増加とATG5発現の増加などが報告されている。
(7) 加齢
オートファジーは、不要な蛋白のターンオーバーと障害を受けた細胞内小器官の除去を行うため、加齢にとって非常に重要な役割を果たしている。加齢は、オートファジーの低下(
ATG5、
ATG7、
BECN1発現の低下)でもあり、老廃物(リポフスチン色素やユビキチン化された蛋白凝集体)の蓄積が起きている。カロリー制限はこの加齢依存性のオートファジー低下を抑制する。
オートファジーの臨床応用
現在のところ、オートファジーの理解がまだ不十分で、オートファジーを特異的に促進する化合物もないため、ヒトの疾患でオートファジーをターゲットにした治療は限られている。限られた治療薬剤としては、ビタミンD、AMPK活性化薬、sirolims (mTOR阻害薬)などが挙げられる。ヒストン脱アセチル化酵素(Sirtuin-1, HDAC1, 2, 6)はオートファジーを調節し、HDAC阻害剤やリソソーム酸性化剤(クロロキン、ヒドロキシクロロキン)もオートファジーを調節する。これらは、癌に対する化学療法の効率を増加させるとして乳癌や前立腺癌、膵β細胞腺癌、非小細胞肺癌に対する臨床試験が行われている。オートファジーのメカニズムがさらに理解されれば、新しい診断・治療薬剤の同定につながるだろう。