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組織に存在するM2様マクロファージの分化にはTrib1が必要である

Critical role of Trib1 in differentiation of tissue-resident M2-like macrophages.

Satoh T, Kidoya H, Naito H, Yamamoto M, Takemura N, Nakagawa K, Yoshioka Y, Morii E, Takakura N, Takeuchi O, Akira S.

Nature. Published online 20 March 2013.


【まとめ】
マクロファージには少なくともM1とM2の2つのサブグループがある。M1マクロファージは炎症性のマクロファージと考えられ、細菌やウイルス感染に対する宿主防御に重要な役割を果たしている。M2マクロファージは抗炎症反応、寄生虫感染、組織リモデリング、線維化、腫瘍の成長に関連があると考えられている。Trib1は、COP1ユビキチンリガーゼと結合することにより、蛋白の分解を担うアダプター蛋白である。ヒトのゲノムワイド関連解析により、TRIB1は脂質代謝に関連があることが分かっている。本研究では、Trib1は組織に存在するF4/80+MR+マクロファージ(M2様マクロファージ)と好酸球の分化に必要であることが明らかになった。Trib1欠損マウスでは、様々な組織(骨髄、脾、肺、脂肪組織)においてM2様マクロファージが著明に減少していた。Trib1が欠損した骨髄細胞ではC/EBPαの発現が異常に増加し、これがマクロファージ分化を抑制する原因となっていた。血球細胞でTrib1を欠損させたマウスは、予想外なことに、脂肪分解が増加して脂肪組織量が減少していた。このマウスにM2様マクロファージを補うとこれらの異常は回復したため、脂肪分解の増加はTrib1欠損によってM2様マクロファージが欠損したことによると考えられた。この血球細胞Trib1欠損マウスに高脂肪食を負荷したところ、炎症性サイトカイン遺伝子の発現増加に伴う高トリグリセリド血症とインスリン抵抗性が認められた。以上の結果より、Trib1は、組織のM2様マクロファージの分化に必要であり、M2様マクロファージの分化を通じて脂肪組織を維持し、代謝疾患を抑制する働きを持つことが明らかになった。

【論文内容】
Tribbleファミリーは、E3ユビキチンリガーゼであるCOP1に結合して蛋白分解を促進する蛋白である。Trib1はIL-12産生に、Trib1とTrib2は急性骨髄性白血病に、Trib3はインスリンシグナル伝達抑制に関与しているという報告がある。しかし、Tribの血球分化への関与はよく分かっていない。そこで、本研究ではまず、tribbleファミリー遺伝子を欠損したマウスにおいて、脾臓に存在するマクロファージ集団の構成について検討した。Trib1-/-マウスの脾細胞では、F4/80+Mac1+マクロファージ(MR、Arg1、Fizz1も発現している)が著明に減少し、Siglec-F+CCR3+好酸球は欠損していた(B細胞、T細胞、樹状細胞、Ly6 C high Mac1+炎症性単球の割合は変化なし。好中球は増加していた)。Trib1-/-マウスの脾臓には、赤脾髄マクロファージ(通常は老化した赤血球を貪食し鉄を蓄積する)が認められず、鉄の蓄積もなかった。また、Trib1-/-マウスでは、組織に存在するマクロファージが著明に減少していた。(なお、Trib2-/-マウスおよびTrib3-/-マウスでは脾臓の骨髄系・リンパ系細胞の欠損は見られなかった。)MR、Arg1、Fizz1の発現はM2マクロファージの特徴であるため、上記の組織マクロファージをM2様マクロファージと呼ぶことにする。以上の結果からは、Trib1は末梢組織に存在するM2様マクロファージと好酸球の分化に必要であると言える。

Trib1-/-マウスの骨髄においても、F4/80+Mac1+細胞とSiglec-F+CCR3+好酸球は著明に減少し、Gr-1 high好中球は軽度増加していた。CD45.1+WT骨髄細胞とCD45.2+ Trib1-/-骨髄細胞を、放射線照射したWTマウスに(1:1の量で競合的に)移植すると、CD45.2+マクロファージと好酸球の発生が著明に障害され、好中球数が増加した。すなわち、Trib1-/-マウスに見られる血球の欠損は血球細胞に内在的なものであり、Trib1は骨髄における骨髄系細胞の正しい分化調節に必要であると考えられた。コロニー形成アッセイを行うと、Trib1-/-骨髄細胞はWT骨髄細胞に比べて、顆粒球・好中球コロニーは多く形成するが、マクロファージコロニーの形成は著明に減少し、好酸球のコロニーは形成しなかった。マクロファージコロニーは、形態学的にaggregated/smallおよびdiffused/largeという2つのサブグループに分類できたが、WTのマクロファージコロニーの多くは前者だったのに対し、Trib1-/-骨髄細胞由来のマクロファージコロニーは後者だった。すなわち、Trib1は骨髄細胞の正しい分化に必要であると考えられた。

Trib1-/-骨髄細胞にレトロウイルスを用いて全長Trib1を発現させると、aggregated/smallマクロファージコロニーと好酸球コロニーが増加し、顆粒球/好中球コロニーが減少した。それに対し、COP1結合部位を欠失させたTrib1 (Trib1(ΔDQIVPE)変異体)をTrib1-/-骨髄細胞に発現させても、コロニー形成異常は回復しなかった。また、Trib1-/-骨髄細胞に全長Trib1を発現させるとM2マクロファージの発現は回復したが、Trib1(ΔDQIVPE)変異体の発現ではM2マクロファージの発現は回復しなかった。

顆粒球発生と単球発生のバランスを調節するのに重要な転写因子はC/EBPファミリーである。Trib1-/-の骨髄細胞およびマクロファージコロニーではC/EBPαの発現が増加していた。さらに、Trib1-/-骨髄細胞に全長Trib1を発現させると、C/EBPα発現が抑制された。そこで、Trib1-/-欠損による骨髄細胞分化異常にC/EBPα発現増加が関与しているかを検討するため、Trib1-/-骨髄細胞のC/EBPα発現をshRNAsを用いて抑制する実験を行った。その結果、Trib1-/-骨髄細胞でC/EBPα発現を抑制するとaggregated/smallマクロファージコロニーと好酸球コロニーの増加、顆粒球/好中球コロニーの減少が起きた。以上の結果から、Trib1はC/EBPα発現をCOP1依存性に変化させて、骨髄細胞分化を調節していることが明らかになった。

最近のゲノムワイド関連解析により、TRIB1に対応する遺伝子座の変異は、血漿リポ蛋白の増加と虚血性心疾患・心筋梗塞のリスク増加に関連していることが示されている。これらのことから、脂肪組織におけるTrib1の役割を検討することにした。Trib1-/-マウスの精巣上脂肪組織の間質血管分画(stromal vascular fraction; SVF)に存在するMR+F4/80+ M2様マクロファージは、WTマウスに比べて著明に減少していた。血球細胞でTrib1を欠損するマウスでも精巣上脂肪組織でのM2様マクロファージは減少し、好酸球は欠損していた。正常の脂肪細胞分画(mature adipocyte Fraction; MAF)にはTrib1はほとんど発現していないので、このM2様マクロファージ減少と好酸球欠損は、血球細胞のTrib1欠損によるものであると言える。(なお、CD11c+Mac1+ M1マクロファージは、正常食負荷下ではWTマウスでもTrib1-/-マウスでも脂肪組織にはほとんど認められていない。)

予想外なことに、血球でTrib1欠損させたマウスは、MRIで観察すると腹部脂肪組織が著明に減少していた。正常食負荷下で、血球細胞でTrib1を欠損させたマウスおよび全身でTrib1を欠損させたマウスは、WTマウスに比べ精巣上脂肪組織と脂肪細胞のサイズが有意に小さかった。すなわち、これらのTrib1欠損マウスは脂肪萎縮形質を示していた。一方で、Trib1-/-マウスでもWT血球細胞を持つ(WT骨髄細胞を移植した)キメラマウスでは脂肪萎縮が起こらなかった。したがって、血球細胞でのTrib1欠損が脂肪萎縮の原因であると考えられた。さらに、Trib1-/-マウスに(WTマウスの脂肪組織から得た)M2様マクロファージを注入すると、3週間後には精巣上脂肪組織と脂肪細胞のサイズが回復した。したがって、Trib1欠損によるM2様マクロファージの消失によって脂肪萎縮形質が起きていると考えられた。

次に、血球でのTrib1欠損によって起こる脂肪萎縮のメカニズムを検討した。脂肪組織は、脂肪合成と脂肪分解のバランスによって維持されている。Trib1-/-骨髄細胞をWTマウスに骨髄移植したキメラマウスは、WT骨髄を移植したWTマウス(コントロール)と比較して、脂肪細胞分化や脂肪合成に関係する遺伝子の発現に差はなかったが、血清NEFAやグリセロール濃度が有意に上昇しており、脂肪分化が亢進している可能性が考えられた。血球細胞でTrib1を欠損させたマウスの精巣上脂肪組織では、IL-10の発現が著明に低下していたが、TnfInosのmRNA発現は増加していた。IL-10は抗炎症作用のほか、脂肪分解を抑制する役割もあるため、M2様マクロファージは一部はIL-10産生を介して脂肪分解を抑制し、脂肪組織を維持していると考えられた(もちろん他の因子の関与も考えられる)。

脂肪萎縮には代謝異常が伴うことが多い。Trib1-/-骨髄細胞をWTマウスに移植したキメラマウスは、高脂肪食を負荷すると空腹時血糖、インスリン、トリグリセリド、コレステロール値が大きく増加し、耐糖能障害およびインスリン抵抗性を示した(ただし体重はWT骨髄細胞をWTに移植したコントロールマウスと差はない)。このキメラマウスはM1マクロファージの数は変化なかったが、脂肪組織のM2様マクロファージの数が著明に減少し、脂肪萎縮(脂肪細胞のサイズが小さい)が認められ、脂肪組織におけるTnfおよびInos mRNAが大きく増加していた。上記の結果から、Trib1-/-骨髄をWTマウスに移植したキメラマウスは、脂肪萎縮があるため、高脂肪食負荷下での脂質のバッファーリングが障害され、代謝疾患が起きていると考えられた。

【結論】
代謝疾患の悪化には、脂肪組織の低レベルの慢性炎症が重要な役割を果たしている。M1マクロファージは肥満の脂肪組織に浸潤し、炎症性サイトカインを産生し低レベルの炎症を引き起こす。本研究によって、M2様マクロファージは、骨髄においてTrib1依存性に分化し、脂肪組織において脂肪分解抑制によって脂肪組織の維持に働き、代謝異常を抑制する作用があることが明らかになった。脂肪組織のM2様マクロファージは、好酸球から産生されるIL-4およびIL-13によって活性化されることが知られているが、このM2様マクロファージがどのように脂肪組織を維持しているかはさらなる検討が必要であろう。ヒトにおけるTRIB1の変異が、組織のM2様マクロファージの分化調節異常を介して代謝疾患を引き起こしている可能性も今後検討が必要である。
by md345797 | 2013-03-22 07:51 | インスリン抵抗性