Conserved shifts in the gut microbiota due to gastric bypass reduce host weight and adiposity.
Liou AP, Paziuk M, Luevano Jr. JM, Machineni S, Turnbaugh PJ, Kaplan LM.
Sci Transl Med. 5, 178ra41. 27 March 27 2013.
【まとめ】
Roux-en-Y gastric bypass (RYGB) は急速に体重減少と肥満の低下、糖代謝の改善をもたらす。この効果は単なるカロリーの摂取や吸収の減少によるものではないことが分かっているが、消化管の再構成による代謝改善がどのようなメカニズムにで起きるかはよく分かっていない。RYGBはヒトやマウスにおいて腸内細菌叢を変化させることから、本研究ではRYGBの肥満改善効果が宿主‐細菌間の相互作用を変化させるためではないかと考えた。RYGBを行ったマウスの便サンプルで16S ribosomal RNA gene sequencingを行ったところ、コントロールのsham手術群、sham手術とカロリー制限を行った群に比べて腸内細菌叢が変化していた。具体的にはGammaproteobacteria (Escherichia)とVerrucomicrobia (Akkermansia)の相対的な増加が急速かつ持続的に起こっていた。このような変化は、体重減少やカロリー制限とは独立して認められ、多くは手術部位より下流の遠位腸管に見られた。さらに、RYGBマウスの腸内細菌叢を無菌マウスに移植したところ、レシピエントマウスの体重減少と脂肪量の減少が認められ、これはRYGBマウスの腸内細菌叢による短鎖脂肪酸の産生減少によるものと考えられた。本研究は、RYGB手術後の体重および肥満の減少は腸内細菌叢の変化によるものであるとする最初の報告である。
【論文内容】
Roux-en-Y gastric bypass (RYGB)は、余剰体重の65-75%を減少させることができる、肥満2型糖尿病のための非常に効率の良い治療法である。この肥満改善のメカニズムは当初カロリー制限と吸収の阻害によるものと考えられたが、最近は体重減少とは独立したメカニズムがあることが分かってきた。 本研究では、RYGB後の腸内細菌叢の変化が代謝改善に影響している可能性について検討した。
マウスモデルにおけるRYGBの肥満に対する効果
高脂肪食負荷マウスにRYGBを行うと3週間以内に体重が29 ± 1.9%減少し、この減少は12週間の試験期間中維持された。それに対し高脂肪食を負荷したsham手術群(SHAM)では体重が増加した。高脂肪食を負荷したRYGB群とsham手術に25%のカロリー制限をした群(weight-matched sham-operated; WMS)は、脂肪量が減少し、脂肪肝が改善した。RYGB群とSHAM群では摂食に差はなく、RYGB群では便中へのエネルギーの消失が大きかった。RYGB群の合計のエネルギー摂取(摂食エネルギーと便中消失エネルギーの差)はSHAM群よりは少ないが、WMS群よりは大きかった。すなわちRYGB群では、合計のエネルギー摂取量が低下し、エネルギー消費も増加していると考えられる。このRYGB後のエネルギー消費の増加は以前にマウスとラットでも報告されているものである。
RYGBは遠位腸管の腸内細菌叢の急速な変化をもたらす
次に、RYGB、SHAM、WMS群の手術前と術後の便サンプルで16S ribosomal RNA (rRNA) gene sequencingを行った。その結果、RYGBでは術後1週間という早期に遠位の腸内細菌叢の構成が著明に変化し、その変化は5週後まで継続した。SHAM群でも便細菌叢の変化は見られたもののその程度はRYGBに比べ小さく、SHAM群とWMS群の差はほとんど見られなかった。したがって、RYGBによって消化管の再構成が起きた際の便細菌叢の変化は、食事制限による体重減少に伴う変化に比べて非常に大きいことが分かった。
さらに、手術していない高脂肪食負荷マウス、手術していない正常食負荷マウス、RYGBを行った正常食負荷マウス(NC-RYGB)の便サンプルの解析結果を比較した。予想通り、高脂肪食負荷マウスと正常食負荷マウスの便サンプルでは、細菌種レベルのoperational taxonomic units (OTUs)が有意に異なっていた(Spearmanの相関の範囲は、群内で0.58から0.84へ、群間で0.16から0.24へと有意(P < 10−7, Student t検定)に変化していた)。しかし、RYGBの腸内細菌叢への影響は正常食および高脂肪食の違いに関わらず同等であり、RYGBの影響は
食事による腸内細菌叢への影響を上回ることが分かった。
食事制限およびRYGB後の体重減少に伴うFirmicutes門の量の変化は同じであった。RYGB群とWNS群の細菌叢は手術前は同じくClostridiales優位だったが、SHAM群ではLactobacillalesとErysipelotrichalesが有意に多かった。それに対し、Bacteroidalesの量は手術前後で3群とも変化がなかった。
RYGBはいくつかの特異的な腸内細菌叢の変化をもたらす。術後2週間でEnterobacterialesが増加し、Verrucomicrobialesの増加も大きかった。Linear discriminant analysis (LDA) effect size (LEfSe)法を用いて、RYGB群、SHAM群、WMS群の便サンプルの間で有意に量が変化した細菌種の同定を行った。RYGB群の腸内細菌叢は、Bacteroidetes、Verrucomicrobia、Proteobacteriaの門レベルの増加、Alistipes、Akkermansia、Escherichiaの属レベルの増加が認められた。
次にRYGB群、SHAM群、WMS群の術後15週の胃、小腸、盲腸、大腸のそれぞれの8か所から管腔および粘膜に付着した細菌を採取して、unweighted UniFrac metricを用いて比較した。その結果、RYGBにより遠位胃、回腸、盲腸、大腸の細菌叢が強く影響を受けていることが分かった。RYGB群の細菌叢はSHAM群と比べてEnterobacteriales、Bacteroidales、Verrucomicrobialesの割合が有意に多かった。管腔および粘膜に付着した細菌集団はRYGBの各部位とSHAM群では同様だったが、WMS群では小腸部位のすべてにわたって細菌集団の多様性が見られた。すなわち、食事制限による体重減少により影響されるのは小腸の面膜表面の細菌で、RYGBによって影響されるのは遠位小腸、盲腸、大腸の細菌であることが示唆される。
さらに、RYGB群、SHAM群、WMS群の便サンプルの脂肪、窒素量とpHを調べた。RYGB群のサンプルはSHAM群、WMS群に比べ、pHが有意に低く、脂肪量が多かった。RYGB群とWMS群の便ではSHAM群に比べ、窒素量が少なかった。RYGB群の遠位胃内のpHはSHAM群に比べて高く、これは食物による直接の胃酸分泌刺激がないことによると思われる。これらの変化が腸内細菌叢の変化と管腔内環境の変化をもたらすと考えられた。
細菌叢の移植によって宿主の肥満を減少させることができる
次に、RYGBによる代謝の変化が腸内細菌叢の変化に直接影響されているものであるか検討するため、RYGBドナーの盲腸の内容物を無菌マウスに移植する実験を行った。このレシピエントマウスをRYGB-R(Rはrecipientの略)と呼ぶ。コントロールには、SHAMまたはWMSドナーの盲腸内容物を移植した無菌マウス(SHAM-RとWMS-R)と、何も移植していない無菌マウスを用いた。移植2週間でRYGB-Rマウスは有意に体重が減少したが、SHAM-Rマウスや無菌コントロールマウスでは体重減少は見られなかった。なお、RYGB-Rマウスの摂食は無菌コントロールマウスに比べ差がなかったが、SHAM-Rマウスの摂食は無菌コントロールマウスに比べて有意に減少していた。内臓脂肪(精巣上および後腹膜脂肪)量および血中レプチン値はRYGB-Rと無菌コントロールマウスで差はなく、SHAM-Rで有意に多かった。肝のトリグリセリド含量とインスリン抵抗性を表すHOMA-IR値はSHAM-Rに比べてRYGB-Rマウスで低い傾向にあり、空腹時トリグリセリドは有意に低かった。
レシピエントの肥満減少に寄与するドナー細菌叢からのシグナルを同定しようとして、回腸のfasting-induced adiposity factor (FIAF)遺伝子の発現と盲腸の短鎖脂肪酸(SCFA)の組成を調べた。SHAM-RとRYGB-Rの回腸では無菌コントロールマウスに比べてFIAF遺伝子発現は同様に低下していたが、盲腸SCFAはこれら3種のマウスで異なっていた。すなわち、無菌コントロールマウスに比べてSHAM-Rマウスでは盲腸SCFA量が有意に多く、RYGB-Rはその中間の値を示した。SCFAの組成としてacetate/propionate/butyrate比はSHAMおよびWMSマウス(75:12:13)とSHAM-Rマウス(74:11:15)は同じだったが、RYGB(62:27:11)とRYGB-R(54:30:16)では異なっていた。
RYGBのレシピエント形質に特異的な細菌のバイオマーカーを同定するため、RYGB-R群、SHAM-R群、WMS-R群の便サンプルの16S rRNA gene sequencingを行った。いずれの群でも移植後2週間の間にEnterobacterialesが増加したが、Bacteroidalesが持続的に優位だった。RYGB-RのサンプルではSHAM-R群およびWMS-R群に比べてVerrucomicrobia(Akkermansia属)が有意に多かった。LefSeによる解析でRYGB-R のサンプルにはドナー(RYGB群)と同様、AkkermansiaおよびAlistipes (Bacteroidetes門)が有意に多かった。ヒト、ラット、今回のマウスのRYGB後にGammaproteobacteria(Enterobacteriales目)が増加していることから、この種が宿主の代謝の変化に大きく貢献している可能性がある。RYGB後に最も多い属であるEscherichiaは炎症性疾患に関与する病原性のある系統もあるが、ある種のものは代謝に良い影響をもたらすのかもしれない。Verrucomicrobium AkkermansiaはRYGBによって増加し、無菌マウスに移植した後にも維持されているので、Akkermansiaも宿主の肥満改善に関係している可能性がある。
【結論】
本研究により、RYGBに伴う腸内細菌叢の変化(特にSCFA構成の変化)が、宿主の代謝と肥満の改善をもたらしていることが明らかになった。