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ノンカロリー人工甘味料は、予想に反して代謝を障害し疾患リスクを増加させる

Artificial sweeteners produce the counterintuitive effect of inducing metabolic derangements.

Swithers SE.

Trends Endocrinol Metab. Published online Jul 3 2013.

【総説内容】
1. ノンカロリー清涼飲料水=ASB(artificially sweetened beverage)と
   従来の砂糖による清涼飲料水=SSB(sugar-sweetened beverage)

従来の清涼飲料水(sugar-sweetened beverages=SSBと略)は、砂糖を使った甘味飲料のことで、その飲用は肥満・2型糖尿病・メタボリックシンドローム・心血管イベントなどの発症に悪影響を及ぼすことが知られている。一方で、ノンカロリーの甘味料(スクラロース、アスパルテーム、サッカリン、アセスルファムカリウム、甘葉ステビア抽出物など。high-intensity sweetenersとも呼ばれ、これは高甘味度甘味料などと訳される)は、カロリーの多い食事や飲料の代わりとなり、望ましいものとも考えられてきた。しかし、本総説ではこれまでの常識とは逆に(counterintuitive)、ノンカロリー人工甘味料を用いた「ダイエット」清涼飲料水(artificially sweetened beverages=ASBと略)は摂食増加、体重増加をもたらし、疾患リスクにつながりうるという報告を整理して述べる。

2. ノンカロリー人工甘味料を用いた清涼飲料水(ASB)による悪影響
(1) ASBの飲用についての観察研究

体重:San Antonio Heart Studyでは、ASBを飲んでいた群は飲んでいない群に比べ7-8年間の体重増加が大きく、この検討ではASBが体重減少や体脂肪率の低下にsつながるという結果は得られていない。
メタボリックシンドローム:いくつかの研究で、ASBを飲んでいた群は飲んでいない群に比べ、メタボリックシンドロームのリスクが増加することが示されている。またASBとSSBのメタボリックシンドロームの発症リスクへの影響は同等とされている。
2型糖尿病:European E3N StudyおよびHealth Professionals Follow-upでは、ASBの飲用でもSSBの飲用でも2型糖尿病発症リスクは増加することが示された。Nurses’ Health Study (NHS)およびEuropean Prospective Investigation into Cancer and Nutrition (EPIC)では、1日少なくとも1回のASBまたはSSB飲用によりどちらも2型糖尿病発症リスクが増加することが示されている。
高血圧・心血管イベント:NHSでは、1日2回以上のASBまたはSSB飲用で冠動脈疾患リスクが増加することが分かり、1日1回以上のASB飲用で高血圧のリスクが増加することが分かった。Northern Manhattan Study (NMS)では、1日1回以上のASBによる血管イベントのリスクは、SSB飲用によるリスクと同等であることが示されている。

(2) ASBの効果を見る介入研究

de Ruyter らは、正常体重の小児(4-11歳)に18か月間1日1回ASBまたはSSBを飲むように割り付ける介入研究を行った。その結果、ASB飲用群の方が、SSB飲用群に比べ、体重や脂肪増加が少なかった。また、肥満成人に水またはASBを、SSBの代わりに6か月飲用させた研究では、SSB群に比べるとASB群の体重減少が多いということはなかった。このような介入研究の結論は、期間や対象の違いにより異なってくるのかもしれず、今のところ介入試験の結果からは一定の見解は得られていない。

上記の前向きコホート研究および介入研究から、ASB飲用は肥満、2型糖尿病、メタボリックシンドローム、心血管イベントなどに関して、少なくとも成人では健康に対し悪影響があると考えられる。さらに、ASB飲用がこれらの疾患のリスク減少と関連があるという結果は得られなかった。これらの研究における結論は、ベースラインのBMI、年齢、性別、身体運動など、また人種、教育、食事カロリーや家族歴など多くの因子で補正されてはいる。それでも、ASBまたはSSBの飲用は疾患のリスク上昇に関連しており、ASBとSSBでその影響の大きさは同様であった。

(3) ASB飲用と肥満についての因果関係は正しいのか?
ASB飲用と健康への悪影響は「逆の因果関係 (因果関係の転倒=reverse causality 、cognitive distortion)」の例であるとも考えられる。すなわち、体重が多い人はノンカロリー甘味料を摂取する方向に向かう傾向があるのではないか。そのために、ノンカロリー摂取が肥満を引き起こすというような逆の因果関係があるように見えるのではないか、とも考えることができる。しかし、ASB飲用によるその後の体重増加、2型糖尿病発症、血管イベントのリスクは、ベースラインのBMIで補正した後でも関連が見られたため、上記のすべての研究結果が「逆の因果関係」によるものでは説明がつかないと思われる。

3. ASB飲用に対する生理的反応
動物実験による比較研究の結果はどうだろうか?ノンカロリー甘味料を負荷されたラットまたはマウスは、ショ糖またはグルコースによる同じカロリーの食餌を負荷された群に比べて、体重が増加することが報告されている。ノンカロリー甘味料による体重増加の原因として、「ノンカロリー甘味料摂取後の食品摂取の調節能力の低下」が考えられる。すなわち、そもそも甘味は、生体にカロリーを摂取したというシグナルを伝えるものであるため、甘味の摂取の後は、摂食が減少し、エネルギー消費が増加するという反応がある。ところが、ノンカロリー人工甘味料で甘味を感じると、甘味を感じた後のエネルギー摂取がないため、そのエネルギー不足を代償するように生体が働くのではないか

(1) 人工甘味料摂取は、ショ糖摂取とは異なる脳の反応を引き起こす
ヒトを対象にした検討では、甘味の感知による脳の反応が、人工甘味料の摂取後には減弱することが示されている。ショ糖摂取により中脳のドーパミン性の報酬・快楽経路が活性化されるが、、人工甘味料摂取ではこの味覚関連経路の活性化は低下する分ことが分かっている。さらに、ASBを定期的に摂取しているヒトはそうでないヒトに比べ、ショ糖に対する脳の反応が異なる。

(2) 人工甘味料のみではインスリンやインクレチン分泌が促進されることはない

人工甘味料を直接胃や腸に注入しても、通常の食後に起こるホルモン(インスリンやGLP-1のようなインクレチン)分泌の急性変化は起きないことが知られている。

(3) ノンカロリー人工甘味料を摂取すると、摂食後のインスリンやインクレチンの放出が増強されなくなる
人工甘味料はショ糖と違って、栄養素によるインスリンやインクレチンの放出を増強しないとされる。例えば、Antonは、ノンカロリー甘味料で甘味をつけた食前食(premeal)を摂った場合、ショ糖で甘味をつけたpremealを摂った後に比べると、食後の血糖やインスリン・GLP-1の上昇が小さいことを報告している。この実験で、premealと食事を合わせて総カロリーと炭水化物の量を同じにしても、ショ糖のpremealはその後の食事によるインスリン分泌を促進するが、ノンカロリー人工甘味料のpremealではその後の食事によるインスリン分泌は増強されなかった。ほかの検討結果を様々な因子で補正した結果を総合的に判断すると、ショ糖による甘味料の摂取に比べ、ノンカロリー甘味料の摂取は、その後の食事摂取後のインスリン分泌という生理的反応を起こりにくくするようである

4. ASB飲用による生理的反応の障害: ASBは学習によって獲得した反応(learned responses)を減弱させる
パヴロフの条件付けの原則に従うと、ずっとノンカロリー甘味料を摂取していると、「ショ糖入り甘味料の摂取によって獲得した反応(食後のインスリンやGLP-1の分泌、エネルギーや報酬に関連する脳の活性化など)」が次第に起きなくなってくるのではないか。すなわち、ノンカロリー甘味料は、通常のショ糖による甘味料の摂取では起こるはずの、脳とホルモンの反応を減弱させる可能性がある。例えば、Brownらはンカロリー甘味料で甘味を付けたpremealを摂取した後は、2型糖尿病患者では経口ブドウ糖摂取後のGLP-1分泌反応が増強されなくなることを示している。さらに動物実験でも、サッカリンで甘味をつけたヨーグルトを与えたラットは、通常のブドウ糖で甘味を付けたヨーグルトを与えた群に比べて、その後の甘味のある食餌に対する反応が減弱するし、ASBを摂取したマウスはそうでないマウスに比べて、カロリー摂取後のGLP-1分泌反応が減弱することが示されている。脳のイメージング研究によって、ヒトにおいても同様と思われる結果が得られている。これらは、ノンカロリーであるASB摂取ではSSB摂取と違ってエネルギーが得られないために、その後にそれを代償するようにエネルギー摂取を増やす方向に生体が働くためではないか、と考えられている。

結語
① ヒトやマウス・ラットモデルにおいて、ASBが体重減少に役立ったり、2型糖尿病・メタボリックシンドローム・心血管イベントを防止したりするといった証拠はほとんど得られていない。一方、ASBを定期的に摂取しているヒトでは、そうでないヒトよりそれらのリスクが増加すること(しかもそのリスク増加は、SSB摂取の場合と同程度)が示唆されている。

② このような、今までの常識に反する結果は、ASBが「SSBの摂取後に引き起こされるべき、学習によって獲得された反応を減弱させる」という効果(ASB摂取ではSSB摂取の際に得られるはずのエネルギーが得られないので、それを代償するために起こると考えられる)を持つことによる考えられている。

③ノンカロリー人工甘味料は多くの食物にも含まれるようになってきた。そのような食物がASBのように体重や代謝に対して悪影響を与えるのか どうかは、まだはっきりしていない。しかし、食物の甘味は、ノンカロリーかどうかによらず摂取に注意が必要であることは間違いなさそうである。



by md345797 | 2013-07-24 01:54 | 症例検討/臨床総説