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2011年 04月 20日 ( 1 )

食塩感受性高血圧における腎β-adrenergic–WNK4経路のエピジェネティックな調節

Epigenetic modulation of the renal β-adrenergic–WNK4 pathway in salt-sensitive hypertension.

Mu SY, Shimosawa T, Ogura S, Wang H, Uetake Y, Kawakami-Mori F, Marumo T, Yatomi Y, Geller DS, Tanaka H, Fujita T.

Nat Med. Published online: 17 April 2011.

【まとめ】
高食塩食は腎の交感神経活性を上げ、腎のNa保持を介して高血圧をもたらすが、この分子機序は不明である。この研究では、β2-adrenergic receptor (β2AR) の刺激が、Na再吸収の調節因子であるWNK4の転写を低下させることを示した。β2AR刺激はcAMP依存性にhistone deacetylase-8 (HDAC8)活性を抑制し、ヒストンのアセチル化を増加させる。このことが、グルココルチコイド受容体(GR) がプロモーター部位のグルココルチコイド反応性エレメント(GRE)に結合することにつながり、WNK4発現を低下させる。食塩感受性高血圧ラットでは、交感神経が過剰に活性化し、食塩負荷で腎のWNK4発現が抑制され、Na+-Cl− cotransporterを活性化し、食塩感受性高血圧が起きる。食塩感受性高血圧の発症にはWNK4転写のエピジェネティックな調節が関与していることが示唆され、腎のβ2AR-WNK4経路は食塩感受性高血圧の治療のターゲットになりうる。

【論文内容】
Serine-threonine kinaseであるWNKファミリーは、腎尿細管Na再吸収に重要な役割を果たしている。WNK4遺伝子のloss-of-function変異を持つ人(偽性アルドステロン症Ⅱ型)はNa+-Cl− cotransporter (NCC)とepithelial Na+ channel (ENaC)の活性化を介して遠位ネフロンでのNa再吸収が増加し、食塩感受性高血圧を示す。同様に、WNK4のdominant-negative mutant を過剰発現させたトランスジェニックマウスは、遠位尿細管(DCT)の過形成とDCTでのNCCの発現亢進が起き高血圧をきたす。

NCCとENaCは交感神経のNa再吸収調節、血圧調節に関わっており、食塩感受性高血圧ラットでは、腎の交感神経活性化とNCC活性上昇が見られる。腎の交感神経活性化はβ2AR活性化とcAMP増加を伴い、腎のENaC活性化によりNa再吸収を亢進させる。

β2AR刺激は腎のWNK4を抑制し、食塩感受性高血圧を発症させる
Norepinephrine (NE)またはisoproterenol (Iso)をマウスに持続注入すると、正常食では血圧は上がらないが、高食塩食にすると血圧が上昇する。この効果はβ遮断薬であるpropranololで阻害される。このとき、腎におけるWNK4発現はNEで低下し、propranololで低下が阻害される。交感神経活性化による食塩感受性高血圧発症にどのβ adrenergic受容体が重要かをβ1KOとβ2KOを用いて検討したところ、β2KOでは上記の高食塩食での血圧上昇とWNK4発現低下が見られなかったため、β2AR刺激を介するものであることが分かった。

WNK4はNCCの負の調節因子であり、マウスにNEを投与すると、NCCの量およびリン酸化が増加し、これはpropranololで阻害された。NCCのin vivoでの役割を検討するため、NCC阻害剤であるhydrochlorothiazide (HCTZ) を高食塩食負荷Iso注入マウスに投与したところ、FENaとUNaVが増加した。そこにβ2ARアンタゴニスト(ICI118551)を投与すると、その効果が消失したため、β2ARがNCCを活性化していることが分かる。

GRは、β2AR刺激によるWNK4抑制に不可欠である
WNK4転写はGRによって負の調節を受ける。グルココルチコイド(Dex)とIsoをmouse DCT(mDCT)細胞に添加したところ、IsoだけではWNK4発現が低下しなかったが、DexはWNK4発現を低下させ、Isoはその低下を増強した。

さらに、mDCT細胞においてGRをsiRNAで欠損させたところ、Iso・DexによるWNK4発現低下はブロックされた。また、GR欠損マウスにIsoを投与してもWNK4発現は低下せず、高食塩食にしても血圧は上がらなかった。これらのことから、GRはβ2ARによるWNK4発現低下と食塩による高血圧発症に不可欠であると考えられた。

β2AR活性化によるWNK4転写のヒストン調節
ヒストンアセチル化はGR依存性に(核内のGR-GRE結合を介して)遺伝子の転写を促進する。mDCT細胞をIsoで刺激すると、ヒストンH3、H4のアセチル化が増加し、これはPKA阻害薬H89で阻害された。ヒストンアセチル化はHDAC(ヒストン脱アセチル化酵素)によって調節されるため、HDAC阻害薬(tricostatin A)添加によってIsoによるWNK4転写の抑制がブロックされたことから、IsoによるWNK4抑制の過程はWNK4プロモーターのヒストン修飾はHDAC(mutantを用いた検討からHDAC-8)活性の抑制によるものと考えられた。

食塩感受性高血圧における異常なβ2AR-WNK4経路
正常ラットでは、高食塩食を与えても腎のNEターンオーバーが少ないが、食塩感受性高血圧のDOCA-saltラットでは大きい(腎の交感神経活性化が大きい)。この腎の交感神経の過剰活性化によりWNK4抑制が起こり、NCCが増加してNa保持が過剰になる。Dahl-Sラットでも同様で(Dahl-Rと比較して)、高食塩食でNEターンオーバーが大きく、血圧上昇する。Dahl-Sラットで腎の交感神経切断術を施行すると、高食塩によるWNK4低下が起こらず、高食塩による血圧増加が起こらなくなる。

【結論】
食塩感受性高血圧の分子機序を明らかにした。高食塩食によって交感神経活性化が起こり、β2ARが活性化、PKAを介してHDAC8の活性を低下させる。これにより、核内のGREのヒストンアセチル化が増加、グルココルチコイドおよびGRが結合し、これがWNK4の発現低下をもたらす。さらにWNK4の低下はNCCの活性化を起こし、それがNa保持の増加につながり、高食塩食による高血圧が起きる。
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by md345797 | 2011-04-20 04:07 | 腎高血圧