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PI 3-キナーゼの調節サブユニット(p85α)はXBP-1の核への移行を増加させ、UPRを調節する

A regulatory subunit of phosphoinositide 3-kinase increases the nuclear accumulation of X-box-binding protein-1 to modulate the unfolded protein response.

Winnay JN, Boucher J, Mori MA, Ueki K, Kahn CR.

Nat Med. 2010 Apr;16(4):438-45.

【まとめ】
PI 3-キナーゼの調節サブユニットであるp85αが、小胞体ストレス下でXBP-1と結合し、ストレス反応(UPR)を引き起こしていることが分かった。p85αは、インスリンシグナル伝達におけるPI 3-キナーゼpathwayと小胞体ストレスに対する反応を結びつけるという、今まで知られていなかった役割を果たしている。

【論文内容】
このグループは、p85αの結合蛋白をbacterial two-hybrid systemを用いて検討し、XBP-1を同定した。HEK293 細胞にp85αとXBP-1sを発現させ、これらが結合すること、この結合はtunicamycin(小胞体ストレスが亢進)で消失することを示した。p85αはXBP-1sを安定化して、核への移行を増加させ、p85αの量が増えるとその移行が促進されることが分かった。

次に、p85αとXBP-1s の結合は、小胞体ストレスに対する反応(UPR:unfolded protein response)を調節しているかを検討するため、p85α欠損マウスのpreadipocyte cell lineにtunicamycinを加えた。その結果、コントロールに比べ、p85α欠損状態では小胞体ストレスに伴うXBP-1sの核への移行が減少していた。さらに他のUPR passwayであるCHOP、ATF-6の核への移行も低下しており、小胞体ストレスに対する反応が減弱していた。

p85α欠損細胞では、XBP-1のスプライシングが減少しており、そのためにXBP-1sが産生されない。ヒト肝細胞cell lineでsiRNAを用いてp85を減少させ小胞体ストレスを加えた場合も同様のことが起こり、細胞の種類に関係なくp85とXBP-1 の結合が小胞体ストレス反応に重要なことが分かる。

肝臓特異的p85α欠損マウスにtunicamyinを投与しても同様のUPRの低下と炎症反応の増加(肝臓マクロファージの増加、TNFαの増加)を示した。

【結論】
インスリン抵抗性の状態(肥満、高脂血症、炎症など)では小胞体ストレスが増加しており、UPRが起きているが、インスリンシグナル伝達とUPRの関連を初めて示した。それには、小胞体ストレス依存性にp85αがXBP-1と結合することが重要な役割を果たしている。
# by md345797 | 2010-11-21 00:13 | インスリン抵抗性

PI 3-キナーゼの調節サブユニットp85αとp85βは、XBP-1と結合してその核への移行を促進する

The regulatory subunits of PI3K, p85α and p85β, interact with XBP-1 and increase its nuclear translocation.

Park SW, Zhou Y, Lee J, Lu A, Sun C, Chung J, Ueki K, Ozcan U.

Nat Med. 2010 Apr;16(4):429-37.


【まとめ】
小胞体ストレスに対する応答(UPR: unfolded protein response)が起きる一つの経路として、転写因子XBP-1sの核への移行が重要である。本研究ではXBP-1sの結合蛋白としてPI 3-キナーゼのp85サブユニットを同定し、核への移行と結果的にUPRが起きることに必要であることを示した。

【論文内容】
このグループでは、XBP-1sに結合する蛋白を検索し、免疫沈降とtandem mass spectroscopyを用いてp85αを同定した。MEFにXBP-1s、p85を発現させた実験で、p85α、p85βともXBP-1sの転写活性を増加させ、その核への移行を促進した。さらに、免疫沈降を用いて、p85αとβは通常結合しており、インスリンによってその結合が解離して、XBP-1との結合が起こり、その核への移行が増加する、という今まで知られていなかったインスリンシグナル伝達が明らかになった。

次にin vivoでのXBP-1とp85の結合を検討するため、肥満モデル(ob/obマウス)を絶食後、refeedingした。その結果、正常マウスではrefeeding後にXBP-1sのp85との結合および核への移行が見られたのに対し、ob/obマウスではそれが認められなかった。すなわち、ob/obマウスでは肥満による小胞体ストレス増大があっても、XBP-1sのp85との結合と核への移行が障害されており、UPRが起こりにくいことが分かった。

そこで、p85αおよびβをアデノウイルスを用いてob/obマウスの肝に過剰発現させたところ、XBP-1sとp85の結合は増加、核への移行も促進され、UPRが増加した。その結果、ob/obマウスの血糖値も低下した。

次に肝特異的p85αおよびβKOマウスを作製し、これらのdouble KOマウスも作製した。このマウスではXBP-1sの核への移行が消失し、肝でのUPRが低下した。

【まとめ】
p85α、p85βの「XBP-1sのregulatory subunitとしての役割」を明らかにした。また、インスリンにより、p85α/p85βのheterodimerizationが阻害され、XBP-1sと結合し、核への移行が促進されるという新しいインスリンシグナル伝達系が発見された。このメカニズムは、肥満モデルであるob/obマウスでは抑制されているが、p85の量を増やすことで改善、p85を欠損させることで消失することが示された。
# by md345797 | 2010-11-20 00:43 | インスリン抵抗性

時計因子CLOCKとBMAL1の欠損は、インスリン分泌低下と糖尿病を引き起こす

Disruption of the clock components CLOCK and BMAL1 leads to hypoinsulinaemia and diabetes.

Marcheva B, Ramsey KM, Buhr ED, Kobayashi Y, Su H, Ko CH, Ivanova G, Omura C, Mo S, Vitaterna MH, Lopez JP, Philipson LH, Bradfield CA, Crosby SD, JeBailey L, Wang X, Takahashi JS, Bass J.

Nature. 2010 Jul 29;466(7306):627-31.

【まとめ】
2型糖尿病患者ではインスリン分泌の周期的な調節が障害されていることが知られている(Polonsky, NEJM, 1998)。今回、膵島は独自の概日時計を持っており、転写因子CLOCK とBMAL1の周期的変動が存在することが示された。概日リズムの変異マウス(Clock, BMAL1 mutant マウス)では膵島のサイズ、増殖能が低下し、インスリン分泌が低下するため、耐糖能障害を生じる。概日時計遺伝子を膵特異的にノックアウトすると、β細胞のグルコース応答性インスリン分泌が低下して糖尿病になる。

【論文内容】
膵島での概日リズムの存在を示すため、PER2-LUC (period2-luciferase) knock-inマウスの膵島を単離した。その結果、各膵島で23.58±0.3hの時間間隔で light emissionが見られた。同じくperiod2-luciferaseをknock-inしたClock変異マウスでは、概日リズムが消失していた。

Clock変異マウスを用いて、膵島での時計遺伝子の障害がグルコース代謝に与える影響を検討した。その結果、変異マウスでは明時も暗時もインスリン分泌が低下しており、血糖が増加していた。GTTでのインスリン分泌、血糖上昇も認められた。

さらにClock変異マウスでは、単離した膵島のglucose-induced insulin secretion(GSIS)および他のinsulin secretagogues (KCl、exendin4、forscolin、8-blomo cAMP)によるインスリン分泌が約50%に低下していた。単離膵島の形態は正常だが、サイズはWTマウスに比較して小さかった。サイズが小さいのは膵島の増殖が少ないため(増殖マーカーKi67染色による)である。Bmal1-/-マウスでもGSISおよび膵島サイズは低下しており、概日遺伝子は膵島機能に重要な役割を果たしていることが分かる。

次に膵特異的Bmal1KOマウスを作製(PDX1 promotorでCreを発現)、このマウスは、膵ではBMAL1が欠損しているが、脳の視交叉上核(SCN)にはBMAL1が正常に発現している。そのため概日活動や摂食リズムは正常である。このマウスでは、GTTでの血糖値上昇、インスリン値の低下が見られ、単離膵島のグルコースおよび他のinsulin secretagoguesによるインスリン分泌が低下していた。

【結論】
膵島は独自の概日時計を持っており、この過程にはCLOCKとBMAL1が重要な役割を果たしている。これらの遺伝子に変異または欠損があると、インスリン分泌が低下し糖尿病となってしまう。本研究により、膵β細胞の局所組織での時計は、概日リズムと代謝シグナルを統合していることが示唆される。
# by md345797 | 2010-11-19 00:19 | インスリン分泌

Amiodarone-Induced Thyrotoxicosis患者へのアプローチ  ―Type1 AITとType2 AIT

Approach to the patient with amiodarone-induced thyrotoxicosis.

Bogazzi F, Bartalena L, Martino E.

J Clin Endocrinol Metab. 2010 Jun;95(6):2529-35. Review.

【まとめ】
ヨードを多く含む抗不整脈薬であるアミオダロンは、15-20%の患者に甲状腺機能異常を起こす。このAmiodarone-Induced Thyrotoxicosis(AIT)は、type1 (ヨードによる甲状腺機能亢進症)とtype2(薬剤性の破壊性甲状腺炎)および両者の混合形態に分類できる。両者の鑑別は、①甲状腺のRadioActive Iodine (RAI) uptakeでtype2は抑制されるのに対し、type1では正常か亢進していること、②甲状腺のカラードップラーエコーではtype1はhypervascularityがあるのに対し、type2ではないこと、などに基づいて行う。Type1の治療は抗甲状腺薬だが、type2の治療は経口ステロイドである。混合形態ではこの両方を行う。


【症例】
66歳男性、甲状腺中毒症のため来院した。2年前よりAfがあり、6か月前よりアミオダロンで洞調律を維持している。4週間前よりいらいら、動悸、体重減少があった。甲状腺の所見なし。FT4、FT3の著明な増加とTSHの感度以下の低下、抗TSH受容体抗体陰性が認められた。甲状腺エコーでは、ややhypoechoicでカラードップラーではhypervascularityなく血流正常。RAI uptake(RAIU)は0.7%と低下していた。

→典型的なtype2 AITである。アミオダロンを中止し、動悸に対しβ-blockerを用いた。経口prednisone 30mg/日を2週間続け、3か月でtaperしたところ正常に戻った。

【総説】
Type1 AITはもともと甲状腺異常があった場合に併発するが、type2は正常な甲状腺に生じる。先行する甲状腺異常の人に対してはアミオダロン投与を避けるためtype1は少なくなってきており、type2が多い。AITは男性に多い。

Thyrotoxicosisの診断自体は容易であるが、type1とtype2の鑑別は困難なことがある。基本的には上記の、ベースに甲状腺疾患があったかどうかと、放射性ヨード取り込み(RAIU)およびカラードップラーエコーによるvascularityの違いで鑑別する。

type1はIodine-induced hyperthyroidismであるため、治療は抗甲状腺薬で行う。ヨードが豊富にある甲状腺は反応しにくく、40-60mg/日の高用量のmethimazoleを長期間用いる。甲状腺のヨード取り込みを抑えて、抗甲状腺薬の反応を良くする目的で、過塩素酸カリウム(KClO4)を併用することが多い。

type2はdrug-induced destructive thyroiditisであり、経口ステロイドによく反応するself-limitingな疾患である。0.5-0.7mg/kg BWのprednisoneを(taperしながら)3カ月続ける。抗甲状腺薬は無効である。

困難なのは、type1とtype2のmixed formであり、甲状腺ホルモン合成が亢進しており、かつ、甲状腺破壊のため分泌も亢進している。治療は、抗甲状腺薬に経口ステロイドを併用する。

AITの診断がついた場合、アミオダロンを中止するかどうかは内分泌医と循環器医でよく相談する必要がある。循環器の立場から中止することが危険でなければ、中止することを勧める。ただし、アミオダロン中止後もAITは数カ月持続する(代謝産物の半減期が長いのと、他の臓器にヨードが蓄積されているため)。

放射性ヨード(RAI)による治療はRAIUが低いため通常は行われない。また薬物療法に抵抗性の場合はthyroidectomyを行うこともある。AIT回復後、再度アミオダロン投与が必要になった場合、予防的にRAIまたはthyroidectomyを行うことがある。
# by md345797 | 2010-11-18 00:38 | 症例検討/臨床総説

絶食と運動に対する骨格筋の代謝適応におけるAMPKとSIRT1の相互依存性

Interdependence of AMPK and SIRT1 for metabolic adaptation to fasting and exercise in skeletal muscle.

Cantó C, Jiang LQ, Deshmukh AS, Mataki C, Coste A, Lagouge M, Zierath JR, Auwerx J.

Cell Metab. 2010 Mar 3;11(3):213-9.

【まとめ】
骨格筋は、絶食時または運動時に、主要なエネルギー源をグルコースから脂質へと効率的に転換する。骨格筋でこのセンサーとなるのがAMPKであり、AMPK活性化によりNAD+が増加、NAD+依存性脱アセチル化酵素であるSIRT1が活性化される。これにより、PGC-1、FOXO1が脱アセチル化され、結果的にミトコンドリア・脂肪酸酸化遺伝子の転写活性化が起きる。AMPKを欠損(dominant negative adenovirusを筋肉細胞に過剰発現、またはAMPKγ-KOマウスを用いた)させると、この経路が阻害される。AMPKは骨格筋の絶食・運動に対する適応に根本的な役割を担っており、その活性化がSIRT1活性化とその下流シグナル伝達を引き起こす。


【論文内容】
C2C12筋肉細胞を低グルコース培地で48時間培養(nutrient deprivation)すると、AMPKがリン酸化/活性化され、細胞内NAD+の増加に伴って、SIRT1のターゲットであるPGC-1α、FOXO1の脱アセチル化が起こる。

ここで、DN-AMPKαをadenovirusを用いてC2C12細胞に過剰発現させた。その結果、低グルコースにしてもAMPKの活性は低下したままで、PGC-1の脱アセチル化が起きず、PCG-1による転写活性化も抑制される。また、低グルコースによる脂肪酸酸化の増加およびグルコース酸化の増加がDN-AMPKの発現で阻害される(AMPKは、エネルギーストレス下でのグルコースから脂質への酸化基質のシフトに必要)。

これらの結果をin vivoで確認するため、AMPKγ3 subunit-KOマウスを用いた。AMPK-KOマウスを絶食にしても骨格筋細胞内NAD+が増加せず、PGC-1、FOXO1の脱アセチル化が障害されている。そのため、PGC-1のターゲット遺伝子(ミトコンドリア、脂肪酸酸化遺伝子)がWTでは絶食で増加するのに対し、KOでは増加が見られない。

(SIRT1の活性化物質であるレスベラトロール(Rsv)投与でWTのPGC-1脱アセチル化が起きるが、KOの脱アセチル化は起きなかった。Rsvの作用は、直接SIRT1を活性化するのではなく、AMPKを介すると考えられる。)

最後にマウスを運動(2.5h swimming)させた効果を検討した。WTのマウスを運動させると、筋肉中のNAD+が増加し、PGC-1は脱アセチル化するが、AMPK-KOマウスではNAD+が増加せず、PGC-1の脱アセチル化も少ない。

【結論】
絶食(nutrient deprivation)と運動は、AMPKを活性化し、筋肉中のNAD+を増加させる。これがSIRT1を活性化し、PGC-1・FOXO1を脱アセチル化する。これにより、脂肪酸酸化遺伝子の転写活性化が起こる。このメカニズムが絶食・運動時のエネルギー利用のシフト(グルコース利用から脂肪の利用へ)に役立っている。
# by md345797 | 2010-11-17 00:24 | エネルギー代謝