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肺機能と2型糖尿病および冠動脈心疾患のリスク

Lung function and risk of type 2 diabetes and fatal and nonfatal major coronary heart disease events: possible associations with inflammation.

Wannamethee SG, Shaper AG, Rumley A, Sattar N, Whincup PH, Thomas MC, Lowe GD.

Diabetes Care. 2010 Sep;33(9):1990-6.

【まとめ】
肺機能と2型糖尿病(T2D)および冠動脈心疾患(CHD)イベントのリスクの関連を、prospectiveに検討し、炎症が両者の関連の原因として存在するという仮説を検証する。T2D、CHDのない男性4,434名を20年間追跡し、ベースラインでの肺機能検査とこれらの疾患の発症との関連を調べたところ、拘束性肺機能障害(閉塞性ではなく)が発症に関連しており、この関連の一部は炎症によって説明できた。

【論文内容】
T2D、CHDのない男性4,434名を20年間追跡調査したところ、680のCHDイベント、256のT2D発症があった。
肺機能(1秒量[FEV1]、肺活量[FVC]および1秒率[FEV1-to-FVC ratio])によって、このコホートをそれぞれの指標で4群(Quartile1-Quartile4)に分けた。その結果、肺活量はBMI、メタボリックリスクファクター(中性脂肪や血糖値)、炎症マーカー(CRP、IL-6)と強い負の相関を示した。それに対し、1秒率はBMI、血糖値と正の相関を示した。

肺活量と1秒量は、T2Dの発症と有意な負の相関を示した。CRP、IL-6で補正するとこの相関は有意ではなくなった。一方、1秒率はT2Dの発症と相関を示さなかった。

Cox比例ハザードモデルを用いて算出した、肺活量と1秒量のT2D発症の補正相対危険度(adjusted Relative Risk)は、Quartile1対Quartile4でそれぞれ1.59、1.74だった。

肺活量と1秒量はCHD発症とも有意に負の相関を示し、特に致死的なCHDと相関した。この相関はCRP、IL-6で補正しても有意であった。肺活量と1秒量の致死的CHD発症の補正相対危険度は、Quartile1対Quartile4でそれぞれ1.48、1.81だった。

【結論】
閉塞性肺機能障害(1秒率の低下)ではなく、拘束性肺機能障害(肺活量、1秒量の低下)が2型糖尿病および致死的な冠動脈心疾患の発症に関与していた。この関与は炎症(マーカーとしてCRP、IL-6) によって一部説明できるものである。
# by md345797 | 2010-11-16 00:29 | 臨床研究

Case records of the Massachusetts General Hospital.  めまいと転倒を訴える54歳女性

Case records of the Massachusetts General Hospital.
Case 14-2010. A 54-year-old woman with dizziness and falls.

Samuels MA, Pomerantz BJ, Sadow PM.

N Engl J Med. 2010 May 13;362(19):1815-23.

【症例提示】
めまいとそれに伴う転倒で入院した54歳女性。2か月前、歩行中に発汗と動悸を伴うめまい、左へ転ぶ感覚が起こった。境界域高血圧、間欠性の心房細動があったが神経学的所見は正常。他院でmetoprolol(β1-blocker)とmeclizineを処方されたが無効であり、症状が頻回に起きるようになってきたため入院。

入院当日はめまい(dizziness)があり、ほとんど失神に近い状感覚と頭痛があった。立位でのみめまいが起こり、そのために立位困難であった。15年前に回転性めまい(vertigo)があったが治療なく消失、今回はそれとは違う症状。入院時血圧145/63、脈拍60で、仰臥位より座位で血圧上昇、起立性に低血圧・頻脈があった。症状は、輸液、ステロイド(fludrocortisone)投与では改善しなかった。入院4日目に上室性頻拍があった。

【鑑別診断】
めまいは、臨床で出会う患者の中で最もchallengingでcommonなproblemの一つである。これは、①vertigo(前庭障害)、②near-syncope(失神に近い感覚)、③disequilibrium(歩行障害)、④light-headedness(不安による)の4つの症候群に分けられる。この患者の場合、立位における失神に近い感覚であり、「orthostatic intolerance (起立不耐症)」、臨床診断としては「postural orthostatic tachycardia syndrome(POTS)(起立性頻脈症候群)」と言える。

この起立不耐症の原因として、立位での脳血流の不十分な維持が考えられ、(副腎または副腎外での)カテコラミンの産生過剰による交感神経α受容体のdown-regulationが疑われる。この場合、仰臥位より腹部を圧迫する座位で血圧が上がることから腹部のカテコラミン産生腫瘍、すなわち副腎褐色細胞腫が考えられる。

24時間蓄尿でのメタネフリン276μg(30-180)、ノルメタネフリン1649μg(128-484)が高値であり、CTで左副腎にenhanceされるmassが認められた。そこで、降圧剤をα-blocker(prazosin)に変更し、起立性低血圧予防のためvolume expansionが必要と考えられ、fludrocortisone処方を継続し高食塩食を摂取させた。その後、腹腔鏡による左副腎摘出術が行われた。

【臨床診断】褐色細胞腫 (pheochromocytoma)

【病理診断】
組織学的診断により、褐色細胞腫と確認。腫瘍部分は、神経内分泌顆粒が染色されるchromoglanin Aとsynaptophysinによって染色された。悪性と良性を区別する形態学的所見はなく、遠隔転移の有無で判断できるのみである。伝統的な「rule of 10」(10%副腎外、10%両側、10%悪性、10%高血圧なし、10%遺伝性)は変わりつつあり、現在では約25%が遺伝子変異を伴う(遺伝性)と考えられている。
# by md345797 | 2010-11-15 00:26 | 症例検討/臨床総説

肝臓由来分泌蛋白selenoprotein Pはインスリン抵抗性を惹起する

A liver-derived secretory protein, selenoprotein P, causes insulin resistance.

Misu H, Takamura T, Takayama H, Hayashi H, Matsuzawa-Nagata N, Kurita S, Ishikura K, Ando H, Takeshita Y, Ota T, Sakurai M, Yamashita T, Mizukoshi E, Yamashita T, Honda M, Miyamoto K, Kubota T, Kubota N, Kadowaki T, Kim HJ, Lee IK, Minokoshi Y, Saito Y, Takahashi K, Yamada Y, Takakura N, Kaneko S.

Cell Metab. 2010 Nov 3;12(5):483-95.

【まとめ】
肝はさまざまな分泌蛋白を産生しており、2型糖尿病の病態生理にも関与が想定されている。このような分泌蛋白をhepatokineと呼び、その一つであるselenoprotein P (SeP)がインスリン抵抗性を惹起することを明らかにした。

【論文内容】
2型糖尿病患者と非糖尿病者から外科的にまたはエコーガイド下に肝を採取し、SAGE(serial analysis of gene expression)およびDNA chip法を用いてインスリン抵抗性と相関する遺伝子を検索した。その結果Sepp1 gene (=selenoprotein Pをencode)が糖尿病で8倍増加しており、グルコースクランプによるインスリン抵抗性とも有意な相関があることが明らかになった。血清SeP蛋白も糖尿病で増加しており、空腹時血糖やHbA1cと有意に相関した。

インスリン抵抗性モデル動物(OLETF rats, KKAy mice)ではSepp1 mRNA・血清SeP蛋白が増加、培養肝細胞ではSePの発現はグルコースで増加、インスリンで低下した。

培養肝細胞にSePを加えるとインスリンシグナル(pIR, pAkt)が低下、糖新生酵素の発現が低下、培養筋肉細胞にSePを加えるとインスリンによる糖取り込みが減少した。正常マウスにSePをip投与すると、耐糖能低下・インスリン感受性の低下、肝・筋でのpAktの低下、高インスリン正常血糖クランプでのインスリン抵抗性の増加が認められた。

培養肝細胞、KKAyマウスにSepp1 siRNAを用いてSePの発現をノックダウンさせると、インスリンシグナルが亢進、インスリン抵抗性が改善した。

Sepp1 欠損マウスでは、食後インスリン値の低下、耐糖能・インスリン感受性の改善、肝・筋でのインスリンシグナルの亢進が見られた。また、このマウスに高脂肪高ショ糖食を負荷しても脂肪細胞の大型化が起こりにくく、耐糖能とインスリン感受性が良好であった。

SePは、培養肝細胞とマウス肝臓でAMPKのリン酸化を減少させた。これに伴いインスリンシグナルの低下(Aktリン酸化の低下)が認められ、インスリン抵抗性の一部はAMPKの不活性化を介すると思われた。その機序として、AMPKを脱リン酸化するphosphataseであるPP2Cの発現を増加させることが示された。

【結論】
肝臓由来分泌因子(hepatokine)の一つとしてselenoprotein Pが同定され、in vivo、in vitroでインスリン抵抗性を惹起することが示された。SePの作用機序を明らかにするには、SePの受容体を同定することが必要だが、本研究では少なくとも作用の一部はAMPKを介することが分かった。また、SePは肝臓および培養肝細胞に作用したことから、作用の一部はautocrine/paracrineの機序で行われていると考えられる。今後、SePは2型糖尿病治療の新たなターゲットになりうる。
# by md345797 | 2010-11-14 00:04 | インスリン抵抗性

父親の高脂肪食摂取がメスの仔ラットのβ細胞障害をプログラムする

Chronic high-fat diet in fathers programs β-cell dysfunction in female rat offspring.

Ng SF, Lin RC, Laybutt DR, Barres R, Owens JA, Morris MJ.

Nature. 2010 Oct 21;467(7318):963-6.


【まとめ】
食事による母親の肥満が、子の脂肪蓄積や代謝に与える影響は明らかにされているが、父親の肥満の影響については分かっていない。このグループでは、オスのSDラットに慢性的に高脂肪食を負荷した結果、これらのラットのメスの仔ラットに膵島面積の低下、インスリン分泌低下、耐糖能悪化が認められた。メス仔ラットの膵島において発現の変化が最も大きかったIl13ra2遺伝子ではメチル化の減少が見られ、エピジェネティックなメカニズムの関与が示された。

【論文内容】
オスのSDラットにコントロール食(n=8)と高脂肪食(n=9)をそれぞれ摂取させ、メスのSDラット(コントロール食)と交配させた。高脂肪食を慢性的に摂取したオスのラットでは、体重増加、耐糖能の悪化、インスリン抵抗性の増悪が認められた。このラットのメス仔ラットを、コントロール食を摂取したラットのメス仔ラットと比較すると、体重、脂肪蓄積、leptin、TG、NEFAに差は見られなかった。ところが、GTTで耐糖能異常とインスリン値の減少が見られた。なおインスリン感受性(ITT、insulin resistant index)には差がなかった。

高脂肪食ラットのメス仔ラットでは、膵島面積が低下しており、グルコースによるインスリン分泌を保つには膵β細胞予備能が不十分と考えられた。

次にこれらのラットの膵島で発現に変化が見られた2492個の遺伝子に対するパスウェイ解析を行ったところ、calcium-、MAPK-、Wnt-signalling pathway、apoptosis、 cell cycleの関与が示された(これらは膵形態の変化、インスリン顆粒のexocytosis障害に影響があると考えられる)。発現の変化が最も大きかった遺伝子はIl13ra2で、pancreatic cancer cell lineに発現し、増殖を調節すると考えられている。この遺伝子の-960cytocinのメチル化が高脂肪食ラットのメス仔ラットで低下していた。このメチル化の低下は膵島機能を変化させるepigenetic modificationであると考えられる。

【結論】
父親の高脂肪食摂取という環境因子の影響が、非遺伝的に父親から仔世代へ伝達されることを哺乳類で示した最初の報告である。このメカニズムには遺伝子のepigenetic modificationが含まれると思われるが、今後解明が必要である。
# by md345797 | 2010-11-13 00:41 | 糖尿病の遺伝学

重篤な低血糖は、血管イベントと死亡のリスクを増加させる(ADVANCE試験より)

Severe hypoglycemia and risks of vascular events and death.

Zoungas S, Patel A, Chalmers J, de Galan BE, Li Q, Billot L, Woodward M, Ninomiya T, Neal B, MacMahon S, Grobbee DE, Kengne AP, Marre M, Heller S; ADVANCE Collaborative Group.

N Engl J Med. 2010 Oct 7;363(15):1410-8.

【まとめ】
ADVANCE試験は、厳格な強化血糖コントロールが血管イベントや死亡のリスクを低下させるか検討するために行われたが、結果としてそれらのリスク低下は認められなかった。その原因として、強化コントロール群は標準コントロール群に比べ体重が増加していたこと、低血糖が多かったことが考えられている。本研究では、ADVANCE試験において低血糖が血管イベントや死亡のリスクに関係しているかをCox比例ハザードモデルを用いて検討した。

【論文内容】
近年、低血糖が急性冠症候群や心筋梗塞の死亡リスクに関係するという報告がある。最近終了したADVANCE試験では、強化血糖コントロールが心血管イベントや死亡のリスク低下につながらなかったが、その理由として強化血糖コントロール群で重篤な低血糖がこれらのリスクを上昇させた可能性がある。そこで、ADVANCE試験の11,140名の2型糖尿病患者において、重篤な低血糖と血管イベントおよび死亡のリスクの関連を検討した。

なお、本研究では血糖50mg/dlおよび典型的な症状を伴うものを低血糖、中枢神経症状により自分では対処できなかったものを重篤な低血糖とした。

5年間の追跡期間中、231例(2.1%)に重篤な低血糖が発生、強化コントロール群で150名(2.7%)、標準コントロール群で81名(1.5%)であった。

追跡期間中、重篤な低血糖は主要大血管イベント(ハザード比 2.88)、主要細小血管イベント(1.81)、心血管系の原因による死亡(2.68)、全死因死亡(2.69)のリスクの有意な上昇に関連していた。呼吸器、消化器、皮膚疾患、癌のリスクも低血糖によりリスクが増大した。

低血糖が心血管疾患を起こす原因として考えられるのは、交感神経・副腎系の異常な活性化、異常な心再分極、血栓形成の増加、炎症・血管収縮の亢進などである。

【結論】
ADVANCE試験では、重篤な低血糖が、大血管イベント、細小血管イベント、死亡、血管以外のイベント(呼吸器・消化器・皮膚疾患・癌)の増加に明らかに関連していた。
# by md345797 | 2010-11-12 00:58 | 大規模臨床試験