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肥満に伴いPPARγはCdk5によりリン酸化され、抗糖尿病薬はそのリン酸化を阻害する

Anti-diabetic drugs inhibit obesity-linked phosphorylation of PPARgamma by Cdk5.

Choi JH, Banks AS, Estall JL, Kajimura S, Boström P, Laznik D, Ruas JL, Chalmers MJ, Kamenecka TM, Blüher M, Griffin PR, Spiegelman BM.

Nature. 2010 Jul 22;466(7305):451-6.

【まとめ】
高脂肪食による肥満に伴いCdk5が活性化され、PPARγのSer273がリン酸化されることが明らかになった。これにより、PPARγの脂肪細胞分化能は変化しないが、adiponectinなどのinsulin-sensitizing adipokineの発現が抑制される。PPARγのリガンド(rosiglitazone, MRL24)はこのPPARγのリン酸化を強力に阻害することにより、上記遺伝子の発現を増加させる。これにより、Cdk5によるPPARγのリン酸化はインスリン抵抗性の病態に関与しており、この機序を介した新たな創薬の可能性が出てきた。


【論文内容】
PPARγにはCdk5でリン酸化されるconsensus site(Ser273)がある。このグループはin vitroでのCdk5によるPPARγのリン酸化を確認し、TNFαなどのサイトカインでリン酸化が惹起されることを示した。さらに、この部位がリン酸化しないmutant PPARγ (S273A)では、脂肪細胞の分化は正常に起こるものの、adiponectinを含むanti-diabeticな遺伝子発現は増加することが示された。

次にin vivoでのリン酸化を確認したところ、高脂肪食負荷マウスの脂肪組織でPPARγ Ser273のリン酸化が亢進していた。

In vitroで、PPARγのリガンド(rosi)はSer273のリン酸化を阻害した。PPARγのリガンドが結合しないmutant (Q286P)ではリン酸化は阻害されなかった。PPARγの弱いリガンドであるMRL24 (non-thiazolidinedione)は、脂肪細胞分化活性化は弱いがPPARγリン酸化阻害能は強い。

そこで、in vivoで高脂肪食負荷マウスにrosiまたはMRL24を投与すると、同様にPPARγのリン酸化が阻害され、血糖は同様に低下、anti-diabeticな遺伝子発現は増加した。

最後に、rosiを6カ月投与したヒトで脂肪生検を行ったところ、PPARγリン酸化の程度とglucose infusion rateは有意な負の相関を示した。すなわち、rosiによるインスリン感受性の改善とPPARγのリン酸化阻害は強く関連していることが分かる。

【結論】
肥満においてcytokine-mediatedに、Cdk5によるPPARγのSer273リン酸化が起きる。PPARγのリガンドはこのリン酸化を強力に阻害し、それによりanti-diabeticな遺伝子発現が増加することが分かった。

MRL24のようなPPARγの弱いリガンドであっても、PPARγのリン酸化を強力に阻害する薬剤は、副作用(体重増加、骨粗鬆症、心不全など)が少なく、抗糖尿病作用が強力である可能性がある。今回の報告は、最近副作用が問題になっているPPARγリガンド薬の振り子(pendulum)のnegative swingを戻したと言えるかもしれない。
# by md345797 | 2010-11-11 00:22 | インスリン抵抗性

糸球体足細胞(podocyte)のインスリンシグナル伝達が正常な腎機能に重要

Insulin signaling to the glomerular podocyte is critical for normal kidney function.

Welsh GI, Hale LJ, Eremina V, Jeansson M, Maezawa Y, Lennon R, Pons DA, Owen RJ, Satchell SC, Miles MJ, Caunt CJ, McArdle CA, Pavenstädt H, Tavaré JM, Herzenberg AM, Kahn CR, Mathieson PW, Quaggin SE, Saleem MA, Coward RJ.

Cell Metab. 2010 Oct 6;12(4):329-40.


【まとめ】
糖尿病性腎症は高血糖に伴う細小血管障害と考えられ主要な障害部位は血管内皮細胞とされていた。しかし、糸球体の足細胞(podocyte)はインスリン反応性の細胞であり、podocyte特異的にインスリン受容体(IR)を欠損させたマウスは、正常血糖にもかかわらずアルブミン尿と糖尿病性腎症の組織学的変化を示した。正常腎機能の維持には、podocyteのインスリン感受性が重要な要因である。

【論文の内容】
糖尿病性腎症は高血糖で起きる細小血管障害と考えられてきたが、正常血糖でも起こりうることが知られており、その発症にはインスリン感受性細胞であるpodocyteの機能障害が重要であるという報告がある。

そこでこのグループは、podocyte特異的IRKOマウス(podIRKO)を作製した。このマウスは対照と比較して体重、血糖・インスリン値は正常であった。ところが、生後8週で有意なアルブミン尿、電顕像でfoot processの広範な消失を認め、podocyteのアポトーシス、糸球体硬化が見られた。これらは糖尿病性腎症に見られる特徴である。

Podocyteにおけるインスリンシグナル伝達を検討するため、マウス(WT、KO)にインスリンをip投与し、15分後腎を採取し急速冷凍したのち、p42/44MAPK抗体、pAKT抗体とpodocyte特異抗体(nephrin抗体)とで共染した。その結果podocyteにおいて、WTではMAPK経路、PI3K経路の活性化が見られたが、KOでは認められなかった。

次にインスリンによるpodocyte actin remodelingを、human podocyteとIR-knockdown podocyteを用いて検討した。インスリンにより正常のpodocyteはactin remodelingを起こし、cell mortilityが上昇するが、IR-KD podocyteではそれが起きなかった。なお、インスリンのこの作用はsmall GTPaseであるRhoの活性化とCDC42の不活性化によって起きることも示された。

【結論】
Podocyteにおけるインスリンシグナル伝達は正常の腎機能に重要であり、その障害は糖尿病性腎症と同様の病理学的所見を起こしうる。Podocyteにおけるインスリン抵抗性が糖尿病性腎症の原因の可能性があり、podocyteのインスリン感受性を亢進させる方法があれば、糖尿病性腎症の治療に役立つかもしれない。
# by md345797 | 2010-11-10 00:02 | 糖尿病合併症

甲状腺ホルモンの新しい作用経路:視床下部のAMPKを介して褐色脂肪組織に作用

Hypothalamic AMPK and fatty acid metabolism mediate thyroid regulation of energy balance.

López M, Varela L, Vázquez MJ, Rodríguez-Cuenca S, González CR, Velagapudi VR, Morgan DA, Schoenmakers E, Agassandian K, Lage R, Martínez de Morentin PB, Tovar S, Nogueiras R, Carling D, Lelliott C, Gallego R, Oresic M, Chatterjee K, Saha AK, Rahmouni K, Diéguez C, Vidal-Puig A.

Nat Med. 2010 Sep;16(9):1001-8.

【まとめ】
甲状腺機能亢進症や中枢神経へのT3(triiodothyronine)の投与によって、視床下部のAMPKが不活性化され、これに伴い交感神経系(SNS)が活性化され、褐色脂肪組織(BAT)での熱産生マーカー遺伝子の転写が活性化されることが明らかになった。従来は甲状腺ホルモンが末梢組織(筋肉)に作用し、熱産生を起こすと考えられていたが、中枢を介した新しい作用メカニズムが明らかになった。

【論文内容】
T4(thyroxin)を投与した甲状腺機能亢進ラットでは、視床下部のAMPKリン酸化が低下、ACCのリン酸化が低下(リン酸化低下により活性上昇)し、視床下部のmalonyl-CoAが増加した。

Aminotriazoleを投与した甲状腺機能低下ラット では逆のことが起こるが、そこに甲状腺ホルモン(T3)をicv投与すると、上記のように視床下部でAMPK、ACCのリン酸化低下が起こり、さらにBATでの熱産生マーカー(UCP1など)の転写が活性化し、体重が減少した。ここに、SNSのβ3‐adrenoceptor阻害剤(SR59230A)を投与すると、BATでの熱産生マーカー転写活性化、体重減少が阻害された。

甲状腺ホルモン受容体(TR)のdominant-negative アデノウイルスを視床下部の腹内側核(VMH)に注入すると、BATでの熱産生マーカー転写活性化、体重減少が阻害された。

視床下部のde novo lipogenesisを阻害するため、ACC阻害薬(TOFA)を投与すると、視床下部のmalonyl-CoAが減少、BATでの熱産生マーカー転写活性化が低下した。AMPKのconstitutive-activeアデノウイルスをVMHに投与しても、ACCリン酸化(活性低下)に伴い、同じ現象が起こった。

AMPKのdominant-negativeアデノウイルスをVMHに注入するとAMPK活性低下、ACCリン酸化低下(活性増加)、視床下部のmalonyl-CoA増加、BATでの熱産生マーカー転写活性化、体重減少が起こった。この効果はSNSのブロック(SR59230A)で阻害された。

【結論】
以上の結果から甲状腺ホルモン(T3)は視床下部のVMHでAMPKを不活性化し、ACCリン酸化低下(活性化)により視床下部のmalonyl-CoAを増加させ、この視床下部でのde novo lipogenesisがSNSを活性化し、BATでの熱産生、体重の減少へとつながると考えられる。

甲状腺ホルモンの新しい作用経路:視床下部のAMPKを介して褐色脂肪組織に作用_d0194774_037919.png

# by md345797 | 2010-11-09 21:24 | エネルギー代謝