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正常・耐糖能異常・糖尿病のヨーロッパ人女性における腸内メタゲノムの特徴

Gut metagenome in European women with normal, impaired and diabetic glucose control.

Karlsson FH, Tremaroli V, Nookaew I, Bergström G, Behre CJ, Fagerberg B, Nielsen J, Bäckhed F.

Nature. 2013 Jun 6;498(7452):99-103.

【まとめ】
2型糖尿病(T2D)は、遺伝子と環境の複雑な相互作用の結果起きる。最近では、腸内細菌叢が新たな環境因子として認識され、腸内細菌叢の変化が肥満、糖尿病、心血管疾患の発症に関連することが分かってきた。本研究では、145名のヨーロッパ人女性(正常、耐糖能異常、糖尿病)の便細菌叢のメタゲノムをショットガンシークエンス法を用いて解析し、それらの構成や機能の変化を検討した。その上で、これらのメタゲノム情報に基づいて、正確にT2Dを予測できるような数学的モデルを開発した。このモデルを用いて、正常者(NGT)とT2Dの中間に位置する耐糖能異常(IGT)を同定することができた。腸内細菌叢とT2Dの関係においては、血糖コントロールや治療(ここではメトフォルミン服用)は大きな交絡因子にはならなかった。さらに、このモデルを昨年報告された中国人コホートでのメタゲノム研究に応用し、ヨーロッパ人と中国人のT2Dを区別するようなメタゲノムマーカーを明らかにした。

【論文内容】
本研究では、ヨーロッパ人の70歳女性(NGT43人、IGT49人、T2D49人)の便細菌叢のDNAをIllumina HiSeq2000を用いて解析し、腸内細菌叢の構成をNCBIおよびHMPデータベースを参照して決定した。T2DとNGTの細菌叢構成を比較すると、T2D群ではLactobacillus種が増加しClostridium種が低下していた。Lactobacillus種の量は、空腹時血糖・HbA1c と正の相関を示し、Clostridium種の量は空腹時血糖、HbA1c 、インスリン、C-peptide、トリグリセリドと負の相関を、アディポネクチン、HDLと正の相関を示していた。これらのLactobacillus種とClostridium種はBMIや腹囲、ウェスト・ヒップ比(WHR)とは相関していない(上記の関連は肥満を介する影響ではない)。さらに、シークエンスデータのde novo アセンブル(読み取ったDNA配列断片=リードをもとに未知のゲノム配列を再構築する)を行い、13.6 Gbの塩基配列を得た。これから本研究のコホートにおける遺伝子カタログを得た。これらの遺伝子をクラスター化し、290万遺伝子の間で相関係数を計算した。これにより強い相関を持つことが明らかになった遺伝子のセットを、メタゲノムクラスター(MGCs)と定義した。大きい方の800のMGCsは少なくとも104の遺伝子を含み、全体では550,188遺伝子を含んでいた。このMGCsの系統的な起源を調べたところ、LCA (lowest common ancestor; 共通祖先でもっとも近くにあるもの)はほとんどがClostridiales (98%)で、残りわずかがBacteriodales (2%)であった。NGTとT2Dのサンプルで大きい方の800のMGCsの量を調べたところ、これらの2群の間で26のクラスターに量の違いが認められた。T2Dの女性で最も多かったMGCsは目(order)レベルではClostridialesで、2種のClostridium clostridioformeであった。ほかにT2D女性で多かったのは種(species)レベルではLactobacillus gasseriStreptococcus mutansであった。C. clostridioformeはトリグリセリドおよびCペプチドと正の相関があり、L. gasseriは空腹時血糖およびHbA1cと正の相関があった。T2Dで有意に低下しているMGCsは21あり、それらにはRoseutia、Bacteroides intestinalisなどが含まれていた。B. intestinalisはインスリンと腹囲に負の相関があった。

次に細菌組成によって糖尿病の状態が予測できるかを調べるため、NGTとT2Dの細菌種のプロファイルとMGCsをランダムフォレストモデルに学習させた。その結果、MGCsを用いると、細菌種を用いた時よりも正確に(ROC曲線下面積が大きい)T2Dを予測できるモデルが作成できた。L. gasseriは種とMGCsの両方で最も高スコアでT2Dを同定することができ、LactobacilliClostridiaは種レベルで、RoseburiaB. intestinalisなどはMGCsをもとにしたモデルで、T2D同定に重要は細菌であった。MGCモデルではRoseburiaFaecalibacterium prausnitziiはT2Dの決定細菌になっているが、これらはヒト腸内に常在する酪酸産生菌(butyrate-producing bacteria)であることが知られている。正常者の便をメタボリックシンドロームのヒトに移植すると、Roseburia増加と酪酸産生の増加に伴って、インスリン抵抗性改善と血糖改善がもたらされることが示されている。

上記のNGTとT2Dを区別するために学習させたランダムフォレストモデルを、このコホートの49名のIGT女性を層別するために用いた。その結果、10名がNGT、34名がT2Dに分類された (5名が分類できなかった)。T2Dに分類されたIGTは、NGTに分類されたIGTに比べてトリグリセリドとCペプチドが高値であった。

次に本研究で得られた遺伝子にKEGGデータベースでの注釈(annotation)をつけ、細菌の機能を検討することにした。その結果、NGTとT2Dでは機能的組成が異なり、それらのパスウェイも異なるものが多かった。T2DメタゲノムでNGTに比べて高スコアだった遺伝子のパスウェイは、グルコース代謝、フルクトース/マンノース代謝、アミノ酸・イオン・単糖に関わるABCトランスポーターであった。また、膜輸送や酸化ストレス耐性に関与する遺伝子は、本研究と既報の中国人T2Dメタゲノム研究の両方で共通して増加していた。

このような腸内細菌叢の組成や機能は、血糖コントロール(HbA1c)や内服薬(メトフォルミン)によって影響されるかを次に検討した。その結果、細菌叢からT2Dを同定するモデルにおいては、それらは大きな交絡因子にはならなかった。

本研究でも中国の研究でも腸内細菌叢とT2Dの関連が明らかに示されたため、本研究のバイオインフォマティクスプラットフォームを用いて中国人メタゲノムデータを解析することにした。その結果、いずれの研究でもT2DメタゲノムでClostridium clostridioforme MGCsが増加、Roseburia_272は減少していた。また、いずれの研究でもT2DコホートではLactobacuillus種が増加していた(Lactobacillusの増加は血糖と正の相関があることが知られている)。

さらに、本研究で同定されたMGCsを中国人のメタゲノムデータでの新しいランダムフォレストモデルの学習に用いた。その結果、中国人と本研究でT2Dを識別できる多くのMGCsは異なることが示された。特にAkkermansiaは本研究のT2Dの分類には使えないが、中国研究ではLactobacillusがT2Dの分類のためには使えないなどの「集団特異的な」細菌種の違いがあった。

【結論】
T2D、IGT、NGTの70歳ヨーロッパ白人の便メタゲノムを解析した。本研究ではメタゲノムクラスター(MGCs)の概念を作成し、MGCsを用いれば細菌種によるよりも正確に、腸内細菌組成からT2Dを同定できることを示した。IGTの女性はこの方法によりNGTとT2Dにほぼ振り分けられた。この腸細菌叢のMGCsは、T2Dのハイリスクのヒトを予測するツールと診断のバイオマーカーになる可能性がある。

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図:細菌叢(microbiota)と病気の発症・回復のモデル
腸内細菌叢の構成はどのように個体の健康に影響するのだろうか?上図のモデルでは、外的な要因(食事、ライフスタイル、感染、抗生剤など)が正常な細菌叢を変化させ、この変化(例えば酪酸産生菌の減少)が、組織の障害を起こし、生体の大きな変化を起こして慢性疾患の発症につながりうる。しかしその後は、細菌叢の回復とそれに伴う障害組織の修復が起きるため、健康で回復力のある(healthy resilient )細菌叢が元に戻ることになる。この過程を促進するために、特定の「治療細菌」の投与が有用かもしれない。将来的には2型糖尿病に対し、ある種の腸内細菌を経口投与することにより糖代謝の改善を図る、といった治療ができるようになるのかもしれない。
# by md345797 | 2013-06-21 18:11 | その他

iPS細胞由来のβ細胞を用いた、グルコキナーゼ欠損による糖尿病のモデル作製

iPSC-derived β cells model diabetes due to glucokinase deficiency.

Hua H, Shang L, Martinez H, Freeby M, Gallagher MP, Ludwig T, Deng L, Greenberg E, LeDuc C, Chung WK, Goland R, Dieter Egli D.

J Clin Invest. Published online, June 17, 2013.

【まとめ】
MODY2は、グルコキナーゼ(GCK)遺伝子のヘテロloss-of-functionによってβ細胞機能障害が起きている糖尿病である。本研究ではMODY2の患者由来のiPSCsを作製した。このiPSCsはコントロール細胞と同様の効率でβ細胞に分化し、成熟β細胞のマーカーを発現、マウスに移植も可能であった。iPSCsを分化させて得たGCK変異β細胞は、アルギニンなどの(グルコース以外の)インスリン分泌促進物質刺激によって、正常にインスリンを分泌した。しかし、このGCK変異β細胞では、グルコース応答性のインスリン分泌は低下していた。このグルコース応答性インスリン分泌の低下は、相同組み換えによる遺伝子の補正(正しいGCK遺伝子配列の導入)によって完全に回復した。以上の結果より、MODY2患者iPSC由来のβ細胞は、MODY2患者のβ細胞に内在する形質を反映していることが示された。このような方法を用いることにより、β細胞機能異常をきたす疾患のメカニズム解析が今後可能となるだろう。

【論文内容】
近年、疾患特異的なiPSCsの作製が可能となっており、いくつかのタイプの糖尿病患者からもiPSCsが作製されている(1型糖尿病高齢者2型糖尿病MODY)。しかし、患者iPSC由来のβ細胞がその患者の実際のβ細胞機能異常を再現しているのか、患者β細胞機能を正常に回復させるための試験に用いることができるのかは明らかになっていない。これらのことを証明するため(As proof-of-principle)、MODY2という単遺伝子異常の糖尿病モデルを用いたiPSCsの作製を行った。このMODY2は、全MODYの8-60%を占めると言われ、グルコキナーゼ(GCK)遺伝子異常によるものである。グルコキナーゼは解糖系の第一歩であるグルコースをグルコース-6-リン酸に変換する酵素であるため、β細胞においてグルコース応答性インスリン分泌の閾値を決定する役割を果たしている。GCKの一方のアリルの機能低下は、グルコース応答性のインスリン分泌の低下、ひいては糖尿病をもたらす。

一アリルにGCK欠損を含むiPSCsの作製
本研究ではまず、MODY2患者(GCK遺伝子のミスセンス変異(G299R)を持つ、38歳ヨーロッパ白人女性)の皮膚生検により細胞を得た。MODY2患者由来のiPSCsは、患者GCK G299R/+細胞のGCK遺伝子G299R変異の上流をZFN(zinc finger nuclease)を用いて切断し、ターゲティングプラスミドと相同組み換えすることによって得た。なお、GCK遺伝子が回復していたGCK corrected/+細胞があり、野生型のコントロール細胞として用いることにした。

GCK欠損iPSCsからの効率的なβ細胞作製
iPSCsは胚体内胚葉(SOX17+)、膵前駆細胞(PDX1+)、内分泌前駆細胞(NGN
3+)を経て、インスリン分泌細胞に分化させることができる。本研究では、膵前駆細胞からβ細胞への分化効率を上げるため、exendin-4とSB431542(TGF-βシグナル阻害剤)を前駆細胞に添加した。このようにして作製したGCK G299R/+細胞は、β細胞転写因子であるPDX1とNKX6.1を、コントロールと同様に発現していた。作製したGCK G299R/+細胞を免疫不全マウスの腎被膜下に移植すると、移植3か月後に約半数のマウスで血清にヒトCペプチドが検出された。また、これらの細胞うちインスリン陽性細胞では、成熟β細胞のマーカーであるurocortin-3とzinc transporter 8が陽性であった。

GCK変異は特異的にグルコース応答性インスリン分泌を障害する
上記のMODY2細胞を移植したマウスに腹腔内グルコース負荷試験を行い、血糖と血中のヒトCペプチド濃度の変動を調べた。GCK G299R/+細胞を移植したマウスは血糖上昇に対するヒトCペプチド値増加が低下しており、グルコースに対するインスリン分泌反応は低下していると考えられた。GCK遺伝子が回復しているGCK  corrected/+細胞を移植したマウスでは、この反応低下が回復していた。さらに、in vitroでこれらのβ細胞にグルコース(2.5 mMおよび20 mM)を添加したところ、GCK G299R/+細胞はコントロール細胞に比べグルコース応答性インスリン分泌が低下(または消失)し、GCK corrected/+細胞ではそれが回復していた。GCK G299R/+細胞では他のインスリン分泌刺激因子(アルギニン、カリウム、Bay K8644)によるインスリン分泌反応は障害されていなかったので、GCK変異によるインスリン分泌低下はグルコース応答性に特異的と考えられた。なお、GCK変異はβ細胞機能(インスリン産生、インスリン前駆体のプロセッシング、インスリン分泌の阻害、β細胞増殖)にも影響しているかを調べたところ、 GCK G299R/+細胞は、インスリン量、インスリン顆粒の数、PDX1+前駆細胞からのβ細胞の生成などのいずれもコントロールとの差は見られなかった。

【結論】
単遺伝子変異による糖尿病患者(GCK変異によるMODY2)の細胞からiPSCsを作製し、β細胞に分化させることによって、患者β細胞に内在する欠損の性質を再現することができた。すなわち、このMODY2 β細胞はグルコース応答性のインスリン分泌を示し、これはGCK遺伝子の補正によって回復することが示された。

この方法を用いると、事実上すべてのタイプの糖尿病のモデルβ細胞を作製することが可能である。例えばWFS1KCNJ1の変異による2型糖尿病のリスク増加も、GCKと同様のβ細胞作製によってそのメカズムが検討でき、さらには正常血糖を保つための細胞治療に用いることができるかもしれない。
# by md345797 | 2013-06-20 07:07 | 再生治療

Brite脂肪細胞と白色脂肪細胞の双方向性相互変換

Bi-directional interconversion of brite and white adipocytes.

Rosenwald M, Perdikari A, Rülicke T, Wolfrum C.

Nat Cell Biol. 15, 659–667, 2013.

【まとめ】
褐色脂肪組織は、冬眠動物およびげっ歯類・哺乳類の新生児において、脂質とグルコースを熱に変換して体温を維持し、エネルギー消費を増加させる役割を担っている。成体のげっ歯類およびヒトは、上記の古典的褐色(classical brown)脂肪細胞に加えて、白色脂肪組織の中に褐色脂肪様の脂肪細胞を含んでいる。これらはbrite (brown-in-white)脂肪細胞と呼ばれ、慢性寒冷に対する生理的反応を担っているが、その細胞起源は明らかになっていない。本研究では、マウスにおける寒冷刺激によって形成されたbrite脂肪細胞が、5週間の温暖適応により白色脂肪細胞に戻ることを示した。単離脂肪細胞の遺伝的追跡と転写の性質を明らかにすることにより、これらの脂肪細胞が白色脂肪細胞の形態および遺伝子発現を示す細胞に変換されることが示された。さらに、古典的白色(classical white)脂肪細胞はさらなる寒冷刺激によってbrite脂肪細胞に変換されることも分かった。白色からbriteヘの形質の相互変換のバランスを変えることにより、エネルギー消費を増加させて肥満を治療する新たな治療法が確立する可能性がある。

【論文内容】
哺乳類の脂肪組織は、非ふるえ熱産生を起こす褐色脂肪組織(BAT)と、過剰エネルギー貯蔵に働く白色脂肪組織(WAT)に大別される。白色脂肪細胞は大きな一つの脂肪滴を薄い細胞質の層が囲んでいるのに対し(unilocular; 単房性)、褐色細胞細胞はいくつかの小さい脂肪滴とUCP-1を含むミトコンドリアの多い細胞質からなる(multilocualr; 多房性)。成人の脂肪組織はWATが大部分を占めるが、新生児は低体温防止のためにBATが主体である。近年、成人でも頚部と鎖骨の近くに機能的なBATがあるという報告がなされている。また、ヒトとマウスにおいて白色脂肪組織の中に褐色様の脂肪細胞が見られ、これはbrite(またはbeige、inducible brown、brown-like)脂肪細胞と呼ばれている。Brite脂肪細胞は非常に動的な細胞集団であり、寒冷刺激で増加する(britening)一方、温暖環境で減少する(whitening)ことが以前から知られている。このbriteningとwhiteningは、成熟した白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の間で直接相互変換(interconversion)する過程(一種のtransdifferentiation)である可能性がある。一方で、このような成熟細胞の相互変換ではなく、WATの中にもともとbrite脂肪細胞に分化する前駆細胞があるとする報告もある。本研究では、in vivoの系統追跡アプローチを用いて、briteおよび白色脂肪細胞の間の相互変換があることを示す。

鼠径脂肪組織の寒冷刺激によるbriteningは5週間の温暖環境で可逆的に変化しうる
C57BL/6マウスをまず寒冷環境(8℃)に1週間おき、その後温暖環境(23℃)に置いた場合の、脂肪細胞における遺伝子発現・蛋白発現と脂肪細胞形態の変化を時系列で検討した。まず、寒冷刺激によって鼠径部脂肪組織において、Ucp1Cox7a1Cidea(褐色/brite脂肪細胞に特異的な遺伝子)の発現が増加した。その後マウスを温暖環境に戻すと、これらの遺伝子発現は正常化した。鼠径部脂肪組織に発現するUCP1蛋白量も同様の変動を示した。また、寒冷刺激により鼠径脂肪組織に多房性の褐色細胞細胞様の細胞が増加し、これらは温暖適応によって消失した。以上より、寒冷刺激により鼠径脂肪組織のbriteningが起こり、生じたbrite脂肪細胞は温暖環境で可逆的に消失することが示された。

Briteおよび褐色脂肪細胞を一過性、または永続的にラベルしたトランスジェニックマウスの作製
本研究ではbrite脂肪細胞を追跡するために、2系統のトランスジェニックマウスを作製した。1つ目は膜結合型eGFPをUcp1プロモーター下で発現させるUcp1-GFPマウスである。このマウスでは、肩甲骨間BATの褐色脂肪細胞と、寒冷刺激後の鼠径脂肪組織におけるbrite脂肪細胞(Ucp1が発現している一時的な状態)をGFPで追跡できる

2つ目のUcp-CreERマウスは、Ucp1プロモーター下に「CreとER(estrogen receptor)の融合遺伝子」が発現するため、ERに結合するtamoxifenによってUcp1発現細胞でCre recombinaseの発現が誘導される。このマウスをROSA-tdRFPマウス(ROSAは全身で均一に発現させるプロモーター、tdRFPはtandem-dimerの赤色蛍光蛋白)と交配すると、(Creが発現した細胞ではloxPに挟まれたSTOP配列が切り出されてRFPレポーターが常時発現するため)褐色脂肪細胞とbrite脂肪細胞がRFPで永続的にラベルできる

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これら2つのマウスを交配し(これをUcp1-トレーサーと名付けた)、GFP(一時的なUcp1発現)とRFP(永続的なUcp1発現)を同時に可視化することで、brite脂肪細胞の継時的な出現を調べる方法をとった。Ucp1トレーサーマウスをtamoxifen含有食を与えながら寒冷刺激においたときの脂肪細胞を観察した。その結果、RFP陽性brite脂肪細胞の多くは多房性であった。ただし、一部の少量の細胞は褐色脂肪細胞と白色脂肪細胞の中間の形質を示した(相互変換における過程の一時的な形質と考えられる)。これらRFP陽性細胞の多くはGFP陽性であったが、新に形成されたGFP陽性細胞でまだRFP陽性になっていない細胞が認められた(一時的なUcp1発現を示す)。

Brite脂肪細胞は温暖適応の過程でアポトーシスによって除去されるのではない
鼠径脂肪組織に生じたbrite脂肪細胞が再び白色脂肪細胞に変化するように見える現象は、次のような3つの可能性で説明しうる。まず第一の可能性は「brite脂肪細胞が白色脂肪細胞に変換する(すなわちwhiteningが起きている)」、第二の可能性はbrite脂肪細胞がいったん間質血管分画(stromal vascular fraction; SVF)に脱分化(dedifferentiation)したあと白色脂肪細胞に分化する、第三の可能性はbrite脂肪細胞がアポトーシスによって除去されているだけで白色脂肪細胞に変化(whitening)しているわけではない、という可能性である。

まず第三の可能性について検討するため、寒冷刺激によって生じたbrite脂肪細胞が温暖条件下でも維持されているのかを調べた。そのため、Ucp1-CreER x ROSA-tdRFPマウスにtamoxifen含有食を与えて寒冷環境におき、その後tamoxifenなしの温暖環境に戻して飼育した。BAT中のラベルされた細胞の割合は時間とともに変化せず、成体マウスでは古典的褐色脂肪細胞のターンオーバーは非常に低かった。鼠径脂肪組織における、寒冷環境でラベルされた細胞の割合は温暖環境の最初の3週で軽度増加し、7週で元に戻った。ここで見られた一時的増加は寒冷刺激直後のbrite脂肪細胞の形成の結果であり、Ucp1発現が一旦ピークとなったためと考えられる。鼠径脂肪組織にラベルされた細胞(Ucp1発現細胞)が残っていたことから、brite脂肪細胞がアポトーシスによって除去されるという可能性は否定された。

Brite脂肪細胞はwhiteningの過程を経た後も、脂肪細胞の形質を維持している
次に第一、第二の可能性、brite脂肪細胞が白色脂肪細胞に変換されるのか、それとも一度脱分化するのかを調べるため、寒冷刺激6週後の単離脂肪細胞とSVFの遺伝子発現を解析した。その結果、褐色/brite遺伝子の発現は寒冷刺激を受けていないコントロールマウスのレベルまで低下していた。しかし、鼠径脂肪細胞におけるRFPの発現はコントロールと比較して4-5倍高かった(SVFではそのような上昇はなかった)。すなわち、ラベルされたbrite脂肪細胞はwhiteningの過程を経ても脂肪細胞の形質を維持していた。さらに、whiteningを受けたbrite脂肪細胞が単に刺激を受けていなかった褐色脂肪細胞でないことを確認するために、FACSを用いて脂肪組織からRFP陽性脂肪細胞を単離した。肩甲骨間脂肪組織および鼠径脂肪組織から単離したRFP陽性脂肪細胞(それぞれ、古典的褐色脂肪細胞とwhiteningの過程を経たbrite脂肪細胞)の比較により、温暖環境により誘導された古典的褐色脂肪マーカー発現の減少は、古典的褐色脂肪細胞よりも鼠径RFP陽性細胞の方が強いことが分かった。すなわち、brite脂肪細胞のwhiteningは、古典的褐色脂肪細胞が刺激されていないためではないことが示された。

Tbx1発現はin vivoで古典的褐色脂肪細胞からbrite脂肪細胞を分化させる
細胞系統のマイクロアレイスクリーニングにより、brite脂肪細胞のマーカーとして、Tbx1、 Tmem26、Tnfrsf9 (CD137をコードする遺伝子)が同定されている。Tbx1は、古典的褐色脂肪細胞に対してbrite脂肪細胞で多く発現している遺伝子であり、whiteningの過程で発現が減少している。しかし、寒冷刺激によるbrite脂肪細胞ではTmem26とTnfrsf9の転写産物は認められず、Tmem26とTnfrsf9は寒冷刺激とは関係なく鼠径SVFに多く発現していることが示された。

Brite脂肪細胞は白色脂肪細胞にwhiteningされると、白色脂肪細胞特異的な遺伝子発現を示すようになる
さらに、whiteningの過程において、褐色脂肪特異的な遺伝子の消失だけでなく、白色脂肪特異的な遺伝子発現を獲得するかどうかを調べた。今までに褐色脂肪細胞で発現していなくて白色脂肪細胞のみで発現している特異的遺伝子は知られていない。そこで、C57BL/6マウスの肩甲骨間褐色脂肪組織、鼠径および精巣上脂肪から得た脂肪細胞とSVFのマイクロアレイ解析を行い、褐色脂肪やSVFの細胞に対して白色脂肪細胞で多く発現する転写産物の同定を試みた。定量的PCRによって確認された、寒冷刺激で発現量が変化しない転写産物は7つあり、レプチンとレジスチンが含まれていた。これら7種類の転写産物は1つの例外を除いて、whiteningの過程を経たbrite脂肪細胞でmRNA発現が大きく増加しており、古典的褐色脂肪細胞での発現は低いままであった。多くの場合、これらの遺伝子発現は寒冷刺激8週後には白色脂肪細胞の発現レベルに達した。なお、寒冷刺激後のRFP陰性の鼠径脂肪細胞には、検出できるレベルのRFP発現が見られないbrite脂肪細胞の分画が含まれていることに注意すべきである。一般的な脂肪細胞マーカー(Fabp4、Pparg)の発現はすべてのサンプルで同一であった。以上の結果から、whiteningを経たbrite脂肪細胞は、古典的褐色脂肪細胞で見られるような刺激以前の状態に戻ったわけではなく、機能的に異なる細胞に変換したのであることが示された。

Brite脂肪細胞は白色脂肪細胞から形成しうる
Briteと白色脂肪細胞間の相互変換は「双方向性」(bi-directional)の適応メカニズムであると考えられるため、whiteningした脂肪細胞がさらにbrite脂肪細胞に戻る可能性を検討した。Ucp1トレーサーマウスをさらに寒冷刺激し、新たなtamoxifen誘導なしで8℃のまま7週間飼育した。このマウスの鼠径脂肪組織を解析すると、RFP陽性のwhiteningを経たbrite脂肪細胞(最初の寒冷刺激でラベルされた細胞)は、2度目の寒冷刺激後に明らかに再びGFP陽性(すなわちUcp1陽性)になっていた。2度目の寒冷刺激がなければ、RFP陽性細胞はほとんど褐色脂肪細胞の形態を示さず、古典的白色脂肪細胞の形質(または一つの大きな脂肪滴を含む中間的な形質)を示していた。再刺激後、平均75%のRFP陽性細胞が褐色脂肪細胞形質を椎飯、少なくともそれらの一部は単房性のwhitening脂肪細胞由来であった。それにもかかわらず、whiteningされたbrite脂肪細胞は新たに形成されたbrite脂肪細胞の唯一の発生源ではなく、2度目の寒冷刺激を受けたGFP陽性brite脂肪細胞はRFP陰性であった。 GFPを再び発現し始めた、再刺激後のRFP陽性細胞のうち、白色脂肪細胞の形態を示すものは認められなかったため、形態的な変化はUCP1発現以前に起こると考えられた。以上の結果から、生理的な温度適応のメカニズムとしてbrite脂肪細胞と白色脂肪細胞の相互変換が起こっていることが結論づけられた。

【結論】
本研究では、brite脂肪細胞がいったん脱分化(dedifferentiate)してその後白色脂肪細胞に分化するのではなく、WAT内でbrite脂肪細胞がアポトーシスによって除かれるのではなく、briteから白色脂肪細胞への変換が起きていることを示した。

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(図) 寒冷環境によるbriteningと温暖環境によるwhitening、さらなる寒冷環境によるre-britening
初めの寒冷刺激で白色脂肪細胞からbrite脂肪細胞が生じる(britening)。これらの細胞は永続的なUcp1発現を表すRFPと一時的なUcp1発現を表すGFPを発現している。Brite脂肪細胞は温暖環境で白色脂肪細胞に戻り(whitening)、それらは永続的なRFPを発現しているが一時的なGFPの発現は消失している。2回目の寒冷刺激によって一度戻った白色脂肪細胞(whitened former brite)が再びbrite脂肪細胞に変換した(re-britening、図の黄色)。図では新たに生じたbrite脂肪細胞(緑)も示している。
# by md345797 | 2013-06-07 01:29 | その他

膵β細胞増殖を調節するホルモン・ベータトロフィン

Betatrophin: A Hormone that Controls Pancreatic β Cell Proliferation.

Yi P, Park JS, Melton DA.

Cell. 2013 May 9;153(4):747-58

【まとめ】
膵β細胞は主に自己複製によって生成される。β細胞の複製を刺激して、減少したβ細胞量を再度増加させることは1型、2型を問わず糖尿病の治療戦略としてきわめて重要である。本研究ではまず、マウスにインスリン受容体アンタゴニスト(S961)を投与してインスリン抵抗性を起こした際の代償的なβ細胞の増加が、他の方法による増加に比べ劇的に大きいものであることを見出した。そこでこのマウスモデルを用いて、肝と脂肪組織で発現が増加する遺伝子のマイクロアレイ解析を行い、主に肝からの分泌蛋白であるベータトロフィンを同定した。ベータトロフィンは急速かつ強力に、β細胞を特異的に増殖させるホルモンであり、肝でのベータトロフィン過剰発現によりマウスの血糖と耐糖能が改善されることが示された。将来的には、糖尿病患者にベータトロフィンを投与してβ細胞数を増加させることにより、インスリン注射の増強または代替治療が可能になると思われる。
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【論文内容】
新しいβ細胞の大部分は自己複製によって生成される(Dor et al., 2004; Meier et al., 2008; Teta et al., 2007)。マウスやヒトのβ細胞は、胎生期と新生児期に急速に増加するが、その後は極めて遅い速度 で複製する(1日に0.5%未満が分割するのみ) 。ただし、妊娠中や高血糖時、膵が傷害を受けた際、末梢のインスリン抵抗性がある場合などはβ細胞の複製速度は上昇する能力を持っている。このβ細胞増殖の遺伝的メカニズムはよく分かっておらず、細胞周期調節因子(cyclin D1/D2 やCDK4)、細胞周期関連転写因子(E2F1/2)が重要な働きを担い、細胞周期抑制因子(p15Ink4b、p18Ink4c、p27Kip1)はβ細胞複製を抑制し、その他の蛋白(NFAT、Menin、p53、Rb、Irs2)がβ細胞複製に関与しているなどのことが分かっているのみである。これらのβ細胞に内在する因子のほかに、全身性の因子の存在が報告されている。まずはグルコースそのものがβ細胞複製を刺激する因子である。グルコキナーゼ欠損でβ細胞増殖が低下するが、グルコキナーゼ活性化薬はβ細胞複製を2倍程度に増加させる(Porat et al., 2011)。インスリンを初めとするホルモン(ほかには胎盤性ラクトゲン、プロラクチン)やGLP-1、GIPなどのインクレチンはβ細胞複製を促進する。しかし、現在までにβ細胞のみを強力に増殖させる因子は知られていない。肝特異的インスリン受容体欠損(LIRKO)マウスでは代償的にβ細胞複製が増加し(Michael et al., 2000)、肝にconstitutively active MEK1を発現させた場合は神経依存的なメカニズムを介してβ細胞複製が増加する(Imai et al., 2008)。最近では、肝から分泌され膵島に直接作用する因子の存在も報告されている(El Ouaamari et al., 2013)。

本研究では、β細胞複製を調節する分泌シグナルの同定を試みた。まず、マウスにインスリン受容体アンタゴニストを投与し、インスリン抵抗性の代償的にβ細胞複製を起こす新しいインスリン抵抗性モデルマウスを作製した。このマウスモデルを用いて、インスリン抵抗性の状態において肝と脂肪組織で発現が増加する遺伝子を同定した。この遺伝子がコードする分泌蛋白は、β細胞を特異的にかつ著明に増殖させて耐糖能を改善する作用を持っていたため、ベータトロフィン(betatrophin)と命名した。

インスリン受容体アンタゴニストS961投与により、インスリン抵抗性・β細胞増殖マウスモデルを作製
43アミノ酸からなるペプチドS961(Schäffer et al., 2008)は、インスリン受容体に結合しそのシグナル伝達を阻害するインスリン受容体アンタゴニストである。浸透圧ポンプを用いてマウスにS961を投与したところ、S961の用量依存的に高血糖と耐糖能異常を起こすことができた。また、これらのマウスではβ細胞の代償的な作用によって血漿インスリン濃度は増加した。

S961投与によりβ細胞複製(Ki67免疫染色による)が著明に増加したが、この反応は直ちに起こり、かつS961の用量依存的で、持続的であった(投与4日目で反応が正常化した)。このβ細胞複製は核のβ細胞マーカー(Nkx6.1)、細胞分裂マーカー(PCNA)の免疫染色、細胞周期調節因子の定量的PCR解析の結果からも確認できた。なお、血糖変化が起こらない程度の低用量S961投与であっても4.3倍程度の、高用量S961投与では12倍ものβ細胞複製が認められた。これは今までの薬物投与で報告されたβ細胞複製率をはるかに超える高率なものである

このβ細胞複製増加はすべての膵島で同様に起きており、その結果β細胞面積は1週間で3倍程度まで増加した。S961投与でこのようなβ細胞量の増加が起きたものの、膵のインスリン含量は減少していた(インスリン抵抗性に伴い多くのインスリンを血中に分泌してしまうためか)。低用量S961の7日間投与ではKi67で測定したβ細胞複製は増加しなかったのに、β細胞量は1.5倍多くなっていた。S961投与によりβ細胞のサイズに変化はなかった。したがって、低用量S961の7日間投与によるβ細胞量の増加は、β細胞の過形成(サイズの増大)が原因ではなく、7日目より前の一時的なβ細胞増殖の結果ではないかと考えられた。S961投与による細胞増殖はβ細胞に特異的であり、膵の他の系列の細胞(内分泌、外分泌を含む)、肝や脂肪の細胞の増殖は認められなかった。

S961投与マウスの肝と白色脂肪組織からのベータトロフィンの同定
In vitroでマウスβ細胞にS961を添加しても、直接の細胞増殖効果は認められなかった。そこで、S961が代謝関連臓器(肝、白色脂肪組織、骨格筋)に作用することにより間接的にβ細胞に作用すると考え、これらの臓器における遺伝子発現をマイクロアレイで検討した。その結果、S961を投与したマウスの肝で4倍、白色脂肪組織で3倍に発現が増加した(骨格筋とβ細胞での発現は変化なかった)1つの遺伝子を同定し、これをベータトロフィンと名付けた(右図)。膵β細胞増殖を調節するホルモン・ベータトロフィン_d0194774_10144113.jpg

この遺伝子は198アミノ酸からなる蛋白をコードしていた。なお、この遺伝子はマウスの遺伝子でGm6484、蛋白でEG624219、ヒトの遺伝子でC19orf80、蛋白でhepatocellular carcinoma-associated protein TD26と注釈(annotation)が付けられていたものである。ベータトロフィン遺伝子は他の遺伝子であるDock6の逆ストランドのイントロン中にある4つのエクソンからなり、哺乳類で高度に保存されている遺伝子であった。

ベータトロフィンは肝と脂肪組織に多く、その発現はβ細胞増殖率に関連する
ベータトロフィンmRNAはマウスの肝と脂肪に発現し、他の臓器の発現は少なかった。ヒトではベータトロフィンは主に肝に発現していた(他の臓器に比べ250倍以上のmRNA発現が見られた)。マウスへのS961注入によるβ細胞複製増加の際には、肝で6倍、白色脂肪組織で4倍のベータトロフィン発現の増加が認められた。インスリン抵抗性モデルであるob/obおよびdb/dbマウスの肝でも3-4倍のベータトロフィンmRNA発現の増加が見られ、妊娠中の肝では20倍の増加が認められた。一方、ジフテリア毒素を用いたβ細胞の特異的な欠損モデルでは肝でのベータトロフィンmRNA増加は認めなかった。以上より、ベータトロフィン発現増加はインスリン抵抗性による生理的な代償性β細胞増殖には関与しているが、膵の急性傷害時の再生反応には関与していないことが示された。

ベータトロフィン遺伝子は分泌蛋白をコードする
マウスとヒトのベータトロフィンの配列解析では、N端の分泌シグナルと2つのcoiled-coilドメインを持つことが分かった。そこで、マウスおよびヒトベータトロフィン遺伝子のC端にMyc-tagを付加したもの(mbetatrophin-Mycおよびhbetatrophin-Myc)を発現ベクターに組み込んで、培養細胞に発現またはhydrodynamic tail vein injection法によりマウスの肝に発現させた。その結果、Myc-taggedベータトロフィン蛋白が培養細胞上清およびマウス血漿中で確認され、ベータトロフィンが分泌蛋白であることが示された。ベータトロフィンはヒト血漿中にも検出され、in vivoでの内因性分泌蛋白であることが分かった。

(hydrodynamic tail vein injection法:
目的遺伝子をsleeping beautyトランスポゾン骨格中でCAGプロモーターまたはEF1aプロモーター下に発現させるプラスミドDNA 100 mgにsleeping beauty transposase発現プラスミド (pCMV-SB100) 4 mgを加え、滅菌生理食塩水で希釈してマウス尾静脈から注入し肝で発現させる方法。)

ベータトロフィンをマウス肝で発現させると、劇的なβ細胞特異的増殖が起き、耐糖能が改善する
マウス肝にhydrodynamic injection法を用いてベータトロフィン(またはコントロールのGFP)遺伝子を含むプラスミドを注入したところ、5-10%の肝細胞に少なくとも8日間にわたってベータトロフィンが発現した。その結果β細胞増殖率は、コントロールの0.27%に対して平均4.6%(17倍)に増加し、多いものでは8.8%(33倍)にも増加した
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(上図)マウス肝にベータトロフィン(上段)を過剰発現させると、GFPを過剰発現させたコントロール(下段)に比べ、β細胞(insulin染色で緑色)のうち複製しているもの(Ki67染色で赤色、重ね合わせ像で黄色)の割合が著明に増加した。
(下図)膵切片の弱拡大像(左右はいずれも代表的な切片)。マウス肝のベータトロフィン過剰発現により、白く囲まれたβ細胞領域のうち、複製しているもの(Ki67染色で白い点として見える)の割合が著明に増加していた。

なお、このβ細胞増殖は核マーカーであるNkx6.1や細胞分裂マーカーPCNAの免疫染色、cyclin、CDKs、E2Fsの定量的PCRでの増加でも確認された。また、このβ細胞の増殖はすべての膵島で観察された。ベータトロフィン過剰発現マウスでは、β細胞数と総β細胞量の増加も認められ、膵島サイズの増大と膵の総インスリン量の増加(2倍程度)が見られた。このベータトロフィン発現による複製刺激はβ細胞に特異的なものであり、膵の他の細胞系列や他の臓器(肝、白色・褐色脂肪組織)にはほとんど認められなかった。

次に、ベータトロフィン遺伝子注入マウスの膵島を単離し、グルコース応答性インスリン分泌(glucose-stimulated-insulin-secretion, GSIS)を調べた。その結果、ベータトロフィン遺伝子注入とコントロールのGFP遺伝子注入マウスで膵島のGSISに差は認められず、ベータトロフィンによって増殖したβ細胞は正常な機能を維持していることが示された。さらに、これらのマウスにグルコース負荷試験を行ったところ、ベータトロフィン遺伝子注入マウスはコントロールマウスに比べ空腹時血糖が低く、耐糖能が改善していた。ベータトロフィン発現により空腹時血漿インスリン値は軽度に増加していたのみだったが、これは絶食時間が比較的短いためか、グルコース感受性亢進のためと考えられた。インスリン負荷試験を行ったところ、ベータトロフィン遺伝子注入マウスとコントロールマウスの間にインスリン感受性の差は認められなかった(S961投与では強いインスリン抵抗性が生じる)。すなわち、ベータトロフィンはインスリン抵抗性の発症を介することなく、β細胞複製を促進していると考えられた。(「ベータトロフィンがまずインスリン抵抗性を発症し、これにより代償的なβ細胞増殖を起こしている」のではないことは、ベータトロフィン過剰発現マウスで空腹時血糖が低値であることからも分かる。)

【結論】
マウスおよびヒトのベータトロフィンであるGm6484/TD26遺伝子については、肝と脂肪に多く発現する遺伝子として最近3つ報告がある(Quagliarini et al., 2012; Ren et al., 2012; Zhang, 2012)。これらはリポ蛋白リパーゼ阻害により血清トリグリセリドの調節について報告しているが、β細胞や糖代謝、糖尿病に対する効果については報告していない。今回、β細胞に対する効果が初めて明らかになった。過去のβ細胞複製率についての報告は、妊娠で4倍(Karnik et al., 2007)、高グルコース注入で2-4.5倍(Alonso et al., 2007)、exendin-4投与で2.6倍(Xu et al., 1999)、β細胞傷害モデルで4倍(Nir et al., 2007)、LIRKOマウスで6倍(Okada et al., 2007)程度である。しかし、今回報告したベータトロフィン遺伝子注入では数日で平均17倍(多いもので33倍)と極めて急速で強力な効果が認められた。今後、遺伝子組み換えベータトロフィン蛋白の作製とその直接注入によるβ細胞複製への効果を検討することが重要であろう。ベータトロフィンの作用機序については不明であり、ベータトロフィンのβ細胞への作用は直接作用か間接作用か、ベータトロフィン受容体や他のcofactorがあるのかなども今後検討が必要である。


◇本研究について著者Douglas A. Meltonの動画

◇ベータトロフィンを用いた治療が実現すれば、内在性のβ細胞の数を増加させることが可能となるため、2型糖尿病の進行を遅らせる極めて有効性の高い治療法となるだろう。さらに、小児1型糖尿病の発症初期や1型糖尿病「ハネムーン期」などβ細胞がまだ残存している場合に投与すれば、1型糖尿病発症を防止できるかもしれない。

◇Harvard Universityは、Evotec社(ドイツ・ハンブルク)およびJanssen Pharmaceuticals社(Johnson & Johnson社の一部門)と研究契約「CureBeta」を結び、ベータトロフィンの治療応用に向けた研究を進めている。著者らは「今後3年から5年以内にベータトロフィンの臨床試験が行えるだろう。頻回インスリン注射の代わりに、週1回、月1回、理想的には年1回の投与頻度で行える糖尿病治療が可能になるだろう」と考えている。

# by md345797 | 2013-04-27 10:17 | 再生治療

腸内細菌叢によるphosphatidylcholineの代謝産物TMAOはヒトの心血管疾患リスク増加に関連

Intestinal microbial metabolism of phosphatidylcholine and cardiovascular risk.

Tang WHW, Wang Z, Levison BS, Koeth RA, Britt EB, Fu X, Wu Y, Hazen SL.

N Engl J Med. 2013; 368:1575-1584. April 25, 2013.

【まとめ】
背景:最近のマウスを用いた検討により、食餌中のphosphatidylcholine (lecithin)のcholine部分から、腸内細菌叢の代謝によってtrimethylamineが生成され、それが肝で代謝されてtrimethylamine-N-oxide (TMAO)となり、これが動脈硬化性の心血管疾患の発症に関連があることが示されている。本研究ではヒトにおいて、①食事中のphosphatidylcholineの腸内細菌叢による代謝、および②TMAO値と心血管イベントの関係について検討した。方法:①健常者に広範囲抗生剤を投与して腸内細菌叢を抑制した前と後で、phosphatidylcholine負荷(ゆで卵2つとdeuterium [d9]ラベルしたphosphatidylcholineを摂取)を行い、血漿中および尿中のTMAO値、血漿choline、betaine(choline代謝産物)値を定量した。②さらに、待期的冠動脈造影を受けた4007人の患者を3年間追跡し、ベースラインの空腹時血漿TMAO値と心血管イベント(死亡、心筋梗塞、脳梗塞)の発症率との関連を検討した。結果:①Phosphatidylcholine負荷後に、時間依存的にTMAO値とラベルされたTMAO(d9 isotopologue)値、および他のcholine代謝産物の増加が認められた。抗生剤投与後は血漿TMAO値は著明に抑制され、抗生剤を中止すると再度上昇した。②また、空腹時血漿TMAO高値は冠動脈イベントのリスク増加と関連があった。既知の危険因子で補正した後であっても、TMAO高値は心血管イベントのリスク増加と関連していた。結論:①食事中のphosphatidylcholineからTMAOが産生されるためには、腸内細菌叢による代謝が必要である。②TMAO値の増加は心血管イベントの発症リスクの増加に関連している。
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【論文内容】
リン脂質であるphosphatidylcholine (lecithin)は食事中の主要なcholine源である。Cholineは脂質代謝や細胞膜の構成に必要であり、そのほかにも神経伝達物質アセチルコリンの前駆体であるなどさまざまな役割を持つ。また、cholineの代謝産物(betaineなど)はある種のアミノ酸に正しくメチル基を負荷するために必要である。このグループは、マウスモデルにおいて腸内細菌叢によるphosphatidylcholine–cholineの代謝経路が動脈硬化性の冠動脈疾患の発症に関与することを報告した。また、phosphatidylcholineのcholine部分の腸内細菌叢依存性代謝産物であるTMAOの空腹時血漿中の値と心血管疾患の罹患歴に関連があることも報告している。今回の研究では、①ヒトにおけるphosphatidylcholineの経口摂取と腸内細菌叢によるTMAO産生の関連について検討した。②また、空腹時血漿TMAO値と長期の心血管イベント発症リスクの関連についても検討した。

① Phosphatidylcholine負荷
40人の健康な成人にphospahtidylcholine負荷を行い、そのうち6人に抗生剤(メトロニダゾールとシプロフロキキサシンを1週間)投与した後に2回目のphosphatidylcholine負荷を行った。さらに、抗生剤中止1か月以上後に腸内細菌叢の回復を待って3回目のphospahtidylcholine負荷を行った。Phospahtidylcholine負荷は、2つの固ゆで卵とトレーサーとしてdeuteriumラベルしたphosphatidylcholine (d9-phosphatidylcholine)を摂取させ、摂取前後の血液と24時間蓄尿で代謝産物を評価するという方法で行った。内因性の(ラベルされていない)TMAOとcholine、betaineが空腹時血漿に認められるが、負荷後はTMAOおよびd9-TMAOが血漿と尿中に出現した。抗生剤投与1週間(腸内細菌叢抑制)には、血漿および尿中のTMAOとd9-TMAOはほぼ完全に消失していた。(Phosphatidylcholine負荷後のcholineとbetaineの増加は変化がなかった。)さらに、抗生剤中止1か月以上後の腸内細菌叢が回復した状態では、phosphatidylcholine負荷後に血漿と尿中のTMAOおよびd9-TMAOの増加が認められた。

② 臨床的なアウトカム
(1) TMAO値と心血管イベントの関連

待期的冠動脈造影を受けて、少なくとも1枝病変があり心血管リスクが高い4007人の成人を対象に、冠動脈カテーテル検査時に血液サンプルを採取し、その後3年間主要な心血管イベントの発症がないかを追跡調査した。(これらの対象患者の心血管リスクは、高齢、高血糖、高率の糖尿病と高血圧の合併および心筋梗塞の既往である。)これらの対象患者のうち、心血管イベントを発症した患者のベースラインの血漿TMAO値は、発症しなかった患者の値より有意に高かった。TMAO値の最低四分位の患者は、最高四分位の患者に比べイベント発症リスクが高かった(hazard ratio 20.54, 95% CI 1.96-3.28, P<0.001)。既知の危険因子とベースラインの共変数で補正した後であっても、TMAO高値は心血管イベントの有意な危険因子であった。Kaplan-Meier解析でリスクの増加を比較すると、いずれのTMAO値でもリスク増加は同様に認められた(下図)。(unadjusted hazard ratio, 1.40 [95% CI, 1.29-1.51; P<0.001]; adjusted hazard ratio, 1.30 [95% CI, 1.20-1.41; P<0.001])
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なお、心血管イベントの要因を別々に解析してもTMAO値の増加はリスク増加に有意に関連していた(死亡に対してはhazard ratio, 3.37; 95% CI, 2.39-4.75; P<0.001、非致死的心筋梗塞と脳梗塞に対しては、hazard ratio, 2.13; 95% CI, 1.48-3.05; P<0.001)。既知の危険因子にTMAOを共変数として含むと、リスク予測は有意に改善した(net reclassification improvementとintegrated discrimination improvementでみる改善度は、それぞれNRIが 8.6% [P<0.001]およびIDIが9.2% [P<0.001]; リスク評価の正確性を表すC 統計量が68.3% vs. 66.4% [P=0.01]と改善が認められた)。

(2) 低リスクサブグループの心血管リスク
血漿TMAO値上昇の心血管リスク上昇は、リスクが低い群でも有意に予後予測的な価値を持っていた。(これらの低リスク群は、若い年齢(65歳未満)、女性、冠動脈疾患の既往なし、脂質異常やアポ蛋白異常が少ない、血圧低値、非喫煙者、リスクマーカー(CRP、myeloreoxidase、白血球数)の増加が少ないなどのグループである。)

【結論】
Phosphatidylcholineは卵、レバー、牛肉、豚肉に多く含まれ、腸内細菌叢で代謝されtrimethylamineを経て肝で代謝されてTMAOになり、これが動脈硬化促進的に働くことがマウスを用いた検討および臨床研究で示されている。本研究では、①アイソトープトレーサーを用いて食事中のphosphatidylcholineからTMAOが産生されることを示し、これが抗生剤投与で消失、抗生剤中止で回復することを確認した。さらに、②空腹時血漿TMAO値が、既知の危険因子とは独立して心血管イベントのリスクを予測する因子であることを明らかにした。


(なお、形質に影響する要因を「遺伝要因」と「環境要因」にはっきり区別して考えるガルトン的な考え方(Galton, 1875)はもはや単純化しすぎの二分法であろう。現代では、環境はエピジェネティックな過程や転写後修飾を通して遺伝的機能を変え、遺伝は環境へのストレス耐性などの因子を変えることが知られているからである。さらに最近では、食事中の成分が腸内細菌叢に影響を与え、宿主の100倍以上の遺伝子を含む腸内細菌叢のゲノムであるmicrobiomeが宿主の疾患に大きく影響していることなどが明らかになってきた。すなわち、宿主ゲノムとmicobiomeが相互作用することにより「supraorganismal」な代謝を形成し、遺伝・環境因子を統合して形質形成に関わっていると考えられている。本研究では、「環境からのphosphatidylcholine摂取が、腸内細菌叢による代謝を経てTMAOを生成し、それがヒトの動脈硬化性疾患を促進する」という宿主と環境の複雑な相互作用が明らかになった。)
# by md345797 | 2013-04-26 07:27 | 心血管疾患